
無骨なボンド像とは、過激なファイターであり、非情なスペシャリストであり、その反面、人間的な弱みをひた隠すセンチメンタリスト。
複雑な内面を抱える彼が、長きに渡るスパイの伝統の重みと疲れを引き受け、ミドルエイジの悲劇に陥り、今後の余生の自分探しを迫られる。
もう冷戦の遺物である工作員に大義はあるの?
デジタル万能時代における身体能力とは何か。
正義の在り処とヒーローの居場所を探り、このスパイ映画が続けられる意味を考える。
かたや、今回の敵は世界征服など眼中にない。
MI6に精通する彼の狙いは、ボンドの女性上司M。
権威の象徴を「ママ」と呼んで怨念をたぎらせる悪は、国家の歪な子であり、ボンドのダークサイドだ。
憎まれ口を叩きながらもMに従う不肖の息子ボンドとシルバの三角関係は、ボンドガールならぬボンドマザーをめぐる主戦場となる。
Mが詩を引用し、運命に翻弄されて弱りきった正義の存在意義を訴える演説が胸に迫る。
アストンマーチンの登場は自身の回顧より、出自をたどる一環だろう。
スコットランドへと舞台を移してから、曇天の英国原風景で繰り広げられる決闘。
古色蒼然たるMI6を家に見立て、屈折した家族の崩壊と再生を経て、007は振り出しに戻る。そんな気がした。
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