
メキシコの麻薬戦争は、日本に居る我々の想像を遥かに超えた、司法や正義の無力に嘆かわしさを覚える問題のひとつである。
特に麻薬ビジネスのために縄張りを争い、殺人を常態化させた麻薬組織/カルテルの存在が、それを現実に起こっていることだと実感させる。
我々は報道を通じて連中が作り出す「見せしめのための死」を見せられても、現実世界のどこかで起こっていることだとは把握できず、そのおぞましさは「悪の法則」(13、監督/リドリー・スコット)などでもシニカルに、そして恐怖感たっぷりに描かれている。
Sicarioも、そんなカルテルとアメリカ合衆国/国土安全保障省/DHSとの戦いが描かれている。
FBI捜査官は、重罪者を討伐してきた優秀さを買われ、カルテルの根を断つための特別編成部隊に参加する。
だがメキシコのフアレスでは、彼女の想像を超える風景が眼前につきつけられた。
周りには首なし死体が放置され、死が日常に満ちた状況のもと、銃撃の脅威と接し、買収された地元メキシコ警官によって身の危険にさらされる。
常識人であり倫理観を備えたFBI捜査官の目に映るのは、「目には、目を。刃には、刃を。」、凶悪には凶悪の姿勢で対峙するしかない程まで腐食しきった犯罪現場。
彼女自身、負のスパイラルに迷い、自らの正義の出口を模索する。
だが現実は彼女の理想を裏切り、毒をもって毒を制するDHSのカルテル打倒策が絶望の淵へと引きずり込んでいく。
我が子を誘拐された父親の復讐劇「プリズナーズ」(13)で、正義の有りように一石を投じた監督。
今回も法を犯してでも悪害を駆逐しようとする、ジレンマのドラマ仕立てに作られている。
異なるのは「プリズナーズ」がじっくりと謎解きサスペンスの手順であったのに対し、「ボーダーライン」は冒頭から緊張感と、死と隣り合わせの恐怖を充満させ、観る者を主人公と同化させる。
あたかも、自分が紛争の渦中に置かれたかのような...。
監督は「プリズナーズ」を、撮影は「ノーカントリー」や「007 スカイフォール」を。
そしてこの二人は、あのSF映画の名作「ブレードランナー」の続編に取り組んでいる。
そういった意味で予習としてご覧になられるのも良いかもしれません。
新「ブレラン」への期待をいやがうえにも高めてくれる作品です。