『本「チャイニーズ・タイプライター(漢字と技術の近代史)」2』
『そこにアルファベットなし、和文タイプライターにはアルファベットあり』
『中国語タイプライターの“不可能性”から繙かれる圧巻の言語技術文化史』
『簡体字は1950年代に制定「チャイニーズ・タイプライター」の開発と同時期』
結構読書は頑張っています。 残酷な内容で苦労した本もありますが、タフな内容で読み切れずいる本が表題の『チャイニーズ・タイプライター(漢字と技術の近代史)』です。 その他には『松本清張著 古代史疑』と『クラウゼヴィッツ著 戦争論(上下)』等があります。
この本を読んでいる途中で気が付いたのですが、『簡体字(かんたいじ、简体字、拼音: jiǎntǐzì)は、1950年代に中華人民共和国で制定された、従来の漢字を簡略化した(略字)字体体系』とありますので、これは『チャイニーズ・タイプライター』の開発と同時期ですので、簡体字のことは、興味津々な今後の課題です。
本書は、この圧倒的な四面楚歌状態の中でさまざまな試行錯誤の末、中国語タイプライターが完成する経緯を丁寧に跡づけていく。 そこには和文タイプライターも深く関与しており、ローマ字入力を当たり前としている日本人にも考えさせるところ大です。 『チャイニーズ・タイプライター(漢字と技術の近代史)』については、腰を据えて、読み通したいと思っています。 理由は最近考えさせられる日本語についての関心からです。
進化・複雑化する日本語は、AIの発達する中で、ウエラブル通訳機・翻訳機で、対応ができるだろうと期待する反面、これらの機器のデータ「多言語辞書」の作成・力仕事が大きな課題になりそうです。 デジタル化の遅れも、IT後進国の背景には、世界でもまれな表現豊かな、日本語ですが、その複雑さと難しさを考えてしまいます。
日本語は世界にも稀な言語で、表意文字(漢字)と表音文字(ひらがな・カタカナ・ローマ字と三種類!)の混合で豊かな表現ができます。 昔、漢字文化圏であった東アジアの国々、韓国・マレーシア・タイ・インドネシア等は、漢字を一部(寺院・宗教・冠婚葬祭関係等)残しているところもありますが、漢字は、ほとんど廃止され、表音文字に戻っています。 ある中国のメディアが、漢字文化圏の縁にいた日本は、なぜ漢字を捨てなかったのかと言っていたような記憶があります。
この本の『タフさ』が分かりかけてきたので、じっくりと腰を据えて、『表意文字と表音文字、漢字とアルファベットの違い、それぞれの発生とその後の進歩と、今、そこにある実態『英語をどん欲に、カタカナで取り込み、進化続ける日本語の凄さと複雑さ』を、この本をテキストに勉強したいと思っています。
漢字・文字を5万種以上持った国・中国が見事に科学技術を発展させましたことは、よい時期・タイミングに恵まれたこともあるとは思いますが、この『チャイニーズ・タイプライター(漢字と技術の近代史)』の一端も、関与しているように思われます。 特に思うのは簡体字と『チャイニーズ・タイプライター』のことです。
和文タイプライターは、日本語の文章を活字体で作成する機械装置。 杉本京太によって発明され、1915年に『邦文タイプライター』(2400文字)としてその原型が製品化されて以降、ワードプロセッサー登場以前に長い間使用されていた。 和文タイプと略称される。
『英文その他言語タイプライター』(40~50文字)
だが、言語種ごとのタイプライターは異なっており、メカニズム的に言うと、欧文用タイプライターはおおむね似たようなメカニズムで実現されているという面はあるが、ひとつひとつの言語ごとにキーボードの配列および活字は異なっている。
『チャイニーズ・タイプライター』(2000~50000文字)
要するにラテン・アルファベットが主導する情報技術(モールス信号、速記、タイプライター、ワードプロセッサー、光学文字認識、デジタルタイポグラフィー等々)の「普遍性」にとって、中国語の文字体系は無視・度外視すべきものとされていた。
この本は、漢字についての発想の転換や戦時中の日中関係、入力や予測変換といった現在につながる技術の起源まで、波瀾と苦渋に満ちた展開を鮮やかに辿る著書です。
序論 そこにアルファベットはない
国際オリンピック委員会(IOC)の規則によれば、入場行進の順位は『ホスト 国で使われているアルファベットの順番に従う』とあるが、中国には『アルファベット』はない。 そこで使ったのはアルファベットではない、発音記号の 『ピンイン』。
ピンイン:拼音(pīnyīn)は、中国語で音節を音素文字に分け、ラテン文字化して表記する発音表記体系を指す、日本語のひらがなで書いた読み仮名のようなもの。
第1章 近代に不適合
もしも標準的な西欧式タイプライターのキーボードに全ての漢字を配列するとキーボードは縦1.5m、横4.6ⅿになり、卓球台を2台つないだ大きさになる。
これを実用的なサイズに、するために『チャイニーズ・タイプライター(漢字と技術の近代史)』の通り、広範囲での凄まじい努力がされたようです。
From Wikipedia, the free encyclopedia
ウエブ情報から引用
勝手ながら、第2章以降は次のブログとさせていただきます。
第2章 中国語のパズル化
第3章 ラディカル・マシン
第4章 キーのないタイプライターをどう呼ぶか?
第5章 漢字圏の支配
第6章 QWERTYは死せり!QWERTY万歳!
第7章 タイピングの反乱
結論 中国語コンピューターの歴史と入力の時代へ
著者 トーマス・S・マラニー,
スタンフォード大学歴史学部教授。 専攻は中国史。 ジョン・ホプキンス大学で修士号、コロンビア大学で博士号を取得
以下ウェブ情報からの抜粋・引用です。
中国人はタイプライターに憧れを抱いた。 しかし、アルファベットを基礎とする西洋発の技術で、漢字のタイプライターを作ろうとすると「問題」が生じる。 文字数の多い漢字の文字体系は普遍性を欠く。
『4000年に及ぶ優れた古典や文学、歴史を投げ捨てるほどの優越性が、単なるタイプライターごときにはない』。 なんとしても中国独自の中国語タイプライターを作ろうと、常用漢字に絞ったり、漢字を分割して組み合わせたり、漢字を数字やアルファベットのコードで仲介して伝送するなど、あらゆる方法が試された。
本書は、10年以上かけて20カ国で資料を収集して行った精緻な実証研究に対して、さらに、歴史記述を『論争的』なものとして、批判的省察を果敢に行う筆者の姿勢にも、マニアックな研究だが、ユーモアにあふれるエピソードが豊富。
満洲国成立後は、日本語タイプライターと日本製中国語タイプライターが勢力を拡大する。 日本語タイプライターを微修正した中国製も現れ、日本人との「結託」も告発された。
漢字をタイプするのは簡単な作業ではない。 和文タイプの存在を知っていたので、中国語タイプも同じようにあると思っていたが、ひらがな・カタカナ・常用漢字と、日常的に使う文字がある程度絞られている日本語と比べ、中国語は事情がまったく違う。
中国語(漢字)にはそれを並べる基準がない。 当然漢字にも「音」はあるわけだが、その音を表す文字がない。 音節の研究はされていたのだから、反切とか考えるより、何か音を表す文字を考えた方が早かったのかとさえ思う。 そう思うと、五十音は素晴らしい。
現代に入り、最終的に中国語タイプライターには日本が大きく関わった。 現代中国にとって、どこを見ても日本の影響のないところはないのかもしれない。 特に最後の方で、タイピストたちが活字の配列を工夫するあたり。 和文タイプがまだ現役だった頃、すり減った活字を取り替える業者がいて、一番よく減る活字はひらがなの「の」だと聞いたことがある。
本書は、和文ならぬ、中国語のタイプライターの歴史を実証的に論じたものである。 諸橋の大漢和辞典では見出し字だけで5万字を超えていることから分かるように、表意文字である漢字の数は万単位。
最大の問題は、数万ある漢字を入力するキーを、一人の人間の操作範囲内の盤面にどうやって納めるかということだった。その解決法として案出された方法が、「常用(字数制限)」→「合成(要素分解)」→「代用(符号化)」、そして検索というように流れていった。
本書は1950年代の中国タイプライターの確立期までで終わっており、その確立期におけるタイピストの「工夫」が現在の機械学習による自然言語処理につながっており、非常に興味深い。 本書の末尾において、続編として、中国語のワードプロッセサーの歴史についての書籍が準備されているとのこと。
本書のパースペクティブは、日本語の「書」について論じられている石川九楊「二重言語国家・日本」にも通ずるものがあり、同書を再読しようと思っている。
本書の主軸をなすのは、西洋のラテン・アルファベットを基にして作られた『近代』の象徴としてのタイプライターと、中国語との間にある距離感である。 その隔たりゆえに中国語そのものに「問題」があるとみなされ、それを克服するための「パズル」が形作られることになる。 常に西洋の「本物」のタイプライターを意識しつつ、この「パズル」を解こうとしていく人々の群像を描いていくなかで、漢字についての発想の転換や戦時中の日中関係、入力や予測変換といった現在につながる技術の起源に至るまで、さまざまな話題が展開されている。 タイプライターというモノを起点としつつ、それの単なる発明史をはるかに超える射程を持った本であり、関心や専門を問わず広く読まれるべき一冊である。
繰り返しになりますが、『表意文字と表音文字、漢字とアルファベットの違い、それぞれの発生とその後の進歩と、今、そこにある実態「英語をどん欲に、カタカナで取り込み、進化続ける日本語の凄さと複雑さ」を、この本をテキストに勉強したい』と思っています。
(記事投稿日:2023/02/05、#625)