礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

提案される前の国家総動員法「原案」

2016-10-11 05:54:50 | コラムと名言

◎提案される前の国家総動員法「原案」

 長谷川正安著『昭和憲法史』(岩波書店、一九六一)によれば、国家総動員法案は、第七三帝国議会に提出される前に、計四か条を削除しているという(一二二ページ)。これは、議会で問題になりそうな条文を、あらかじめ削除しておくことによって、議会の通過を容易にしたいという政府の思惑によったものであろう。
 では、その四か条を含む国家総動員法案の「原案」とはどういうものだったのか。これを調べようとしたが、すぐには見つからなかった。削除された四か条を知ることはできた。以下の通りである。

旧第二十条 政府ハ戦時ニ際シ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ集会又ハ多衆運動ノ制限又ハ禁止ニ関シ必要ナル命令ヲ為スコトヲ得
旧第二十二条 政府ハ戦時ニ際シ新聞紙法第二十二条又ハ前条第二項ノ規定ニ依リ三十日以内ニ二回以上又ハ引続キ二回以上新聞紙ノ発売及頒布ヲ禁止シタル場合ニ於テ国家総動員上必要アルトキハ勅令ノ定ムル所ニ依リ其ノ新聞紙ノ発行ヲ停止スコトヲ得
2 前項ノ停止命令ニ違反シテ発売又ハ頒布スルノ目的ヲ以テ印刷シタル新聞紙ハ管轄地方官庁ニ於テ之を差押フルコトヲ得
旧四十一条 第二十条ノ規定ニ依ル制限又ハ禁止ニ違反シタル者ハ六月以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス
旧四十三条 第二十二条第一項ノ規定ニ依リ新聞紙ノ発行停止ヲ命ゼラレタル者其ノ停止期間中ニ新聞紙ヲ発行シタルトキハ六月以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス

 以上の四か条である。これら四か条が削除されたということは、国家総動員法案の「原案」は、全五十三条だったということになるか(第五〇条は、「原案」にはなく、あとから加えられたという)。
 旧第二二条第一項に、「前条第二項」とあるが、これは、旧第二一条第二項(成立した国家総動員法の第二〇条第二項)のことである。
 なお、上記の四か条は、木元幹三〈カンゾウ〉著『国家総動員法早わかり』(新生社書店、一九三八)に載っていたものを紹介させていただいた(一二~一三ページ)。同書は、国立国会図書館にあって、インターネット公開されているので、自宅でも閲覧でき、コピーも作成できる。

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