◎防共護国団事件の余波
今月一四日のコラムで木元幹三の『国家総動員法早わかり』(新生社書店、一九三八)に拠りながら、「防共護国団事件」を紹介した。この時は、同書の一五~一六ページを引用したが、本日は、それに続く部分を紹介したい。
その〔防共護国団事件があった一九三八年二月一八日の〕前日津雲〔國利〕氏の警視総監訪問等を云々して本件は政府の国家総動員法案並に〈ナラビニ〉電力国家管理案議会通過工作と何等かの関連を有するものではないかとの疑惑が政民両党を支配し二月十九日午後の衆義院本会議に於ける末次〔信正〕内相の本件にする自発的発言並に民政党松田竹千代、政友会東武〈アズマ・タケシ〉両氏の緊急質問となつた。
而してこれに先立ち衆議院各派交渉会は末次内相に対する質問者を決定し小会派を代表して第二議院倶楽部所属小山亮〈マコト〉氏の質問をもゆるすことにして居つた。松田氏の質問演説内容は別として東武氏の質問は政友会代議士会に於て安倍〔源基〕警視総監並に富田〔健治〕警保局長の糾弾が決議された内容とは恐らくかけ離れた内務当局に対する如何にも屈服的な内容のものであつて政民両党より猛烈な野次をあびせられ、次いで小山亮氏の質問に対して質問打ち切りの動議が民政党より提出されこの動議の採択問題において遂に近来稀に見る議場内暴力沙汰をすら捲き起すに至つた。
末次内相が防共護国団事件によって相当窮地に立つと思はれたのもつかの間、政党内部にも既に抬頭してゐる革新派と現状推持派の内部抗争による他力の本願に救はれて当日の議会に於ては政府側の大勝利が記録された。
小会派代表の小山亮氏は当日左の如き趣旨の演説草稿を用意して居つた。
政党内部の暗闘を議会にまで延長して重要国策の審議を妨げるが如き、国家の革新政策を阻害するが如き既成政党、並に存在意義を失ひ偽装的転向にカモフラージユしてゐる社会大衆党に対して解散を命ずる意思ありや否や。これを前程として防共護国団事件に言及し津雲氏の名前を引用せんとして居つた。津雲氏は直ちに〈タダチニ〉一身上の弁明と称してその直後これまた発言を用意し、その発言において既成政党内部の実状、非革新的政党ボスの策動内容等を一挙に暴露して自分は政党解党の目的をこれによつて進捗せしめ、政府の重要法案たる電力並に国家総動員法案通過の拍車たらんとしたのであつたと云ふ予定であつたといふ。
これらの実状から見て目下政友会内部に鬱積楨してゐる解党運動と国家総動員法案との関連には深刻なるものがある。即ち政民両党の内務当局の糾弾が尚継続されるに於ては内務当局並にこれと相通じてゐる解党運動派に於ては政党取締りの歴史的変革とも称すべきお膳立てが出来て居つたとさへ云はれるのである。しかも政党解党運動の底流をなすものは政友会内閣国体明徴一派を前衛となし国家総動員、その他の革新的政府の政策に協力する点に結ばれて政府の内部に強く根を張り、広い範囲の関係を保ち電力並に国家総動員法案に対する既成勢力の咽喉を扼して〈ノドヲヤクシテ〉居ることが注目されるのである。