◎意外に多い漢字一字の町村名
昨日の続きである。海野昌平著『実生活に及ぼす国語及び文字の波紋』(桑文社、一九三七)から、「十一、地名奇談」の「二、地名」を紹介している。本日は、その二回目。【 】内は、原ルビである。
全国の町村名の中で一字のが大分ある。付近の中心をなしたといふ意味から「本町」「元町」等といふのはよく見る名であるが、中にはなかなか面白いのがある。
東京府 志【し】 砂【すな】 霞【かすみ】 金【かな】 大【おほ】 扇【おほぎ】
大阪府 鳳【おほとり】 巽【たつみ】 中【なか】
京都府 田【た】 篠【しの】
神奈川県 寄【やどりぎ】 岩【いは】 川【かは】
兵庫県 藍【あい】 芝【しば】 社【やしろ】 広【ひろ】 畑【はた】 浦【うら】
長崎県 琴【きん】 宮【みや】 峯【みね】
千葉県 都【みやこ】 睦【むつみ】 土【つち】 源【みなもと】 環【たまき】 丸【まる】 柏【かしは】 明【あきら】
茨城県 圷【あくつ】 要【かなめ】 巴【ともえ】 玉【たま】 文【ふみ】 林【はやし】 静【しず】 大【おほ】
栃木県 姿【すがた】 桑【くは】 きぬ【絹】 菱【ひし】 中【なか】
群馬県 島【しま】 新【しん】
埼玉県 平【たひら】 静【しづか】 芝【しば】
奈良県 都【みやこ】 多【おほ】
三重県 鵲【かさゝぎ】 縣【あがた】 椿【つばき】 栄【さかえ】 明【あきら】
愛知県 園【その】 起【おこし】 奥【おく】 楠【くすのき】
新潟県 乙【きのと】 巻【まき】 燕【つばめ】 今【いま】
和歌山県 広【ひろ】
静岡県 熊【くま】 中【なか】
山梨県 宝【たから】 甲【かぶと】 岡【をか】 祝【いはひ】 錦【にしき】 英【はなぶさ】 山【やま】 榊【さかき】 源【みなもと】 巌【いはほ】 忍【しのぶ】
滋賀県 稲【いな】 宮【みや】 苗【なへ】
岐阜県 鶉【うづら】 岩【いは】 時【とき】 玉【たま】 結【むすぶ】 鴬【うぐひす】 中【なか】 陶【すえ】 上【かみ】 乾【いぬゐ】 宮【みや】 灘【なだ】
長野県 長【をさ】 上【かみ】 梓【あづさ】 寿【ことぶき】 大【おほ】 温【ゆたか】 倭【やまと】 縣【あがた】 和【かなふ】 鼎【かなへ】 柵【しがらみ】
宮城県 桜【さくら】 北【きた】
福島県 旭【あさひ】
岩手県 盛【さかり】
青森県 館【たて】 向【むかひ】 中【なか】
山形県 齊【いつき】 中【なか】 泉【いづみ】
福井県 棗【なつめ】 鶉【うづら】 豊【ゆたか】
石川県 直【たゞ】 牧【まき】 額【ぬか】 郷【がう】 兜【かぶと】 端【はし】
富山県 下【しも】 泊【とまり】 野【の】 平【たひら】
鳥取県 隼【はやぶさ】 大【おほ】 社【やしろ】 泊【とまり】 渡【わたり】 縣【あがた】
島根県 久【く】 園【その】 谷【たに】
岡山県 今【いま】 庄【しやう】 富【とみ】 郷【がう】
山口県 串【くし】 萩【はぎ】 陶【すえ】 通【かよひ】
広島県 安【やす】 伴【とも】 沖【おき】 市【いち】 高【たか】 奥【おく】 坂【さか】 鞆【とも】 牧【まき】 広【ひろ】
徳島県 脇【わき】 辻【つぢ】 椿【つばき】
香川県 麻【あさ】 林【はやし】
愛媛県 鏡【かゞみ】 来【く】
高知県 岩【いは】 田【た】 鏡【かゞみ】
福岡県 剣【つるぎ】 開【ひらき】 赤【あか】 中【なか】 岬【みさき】
大分県 谷【たに】 上【うへ】 荻【おぎ】
佐賀県 鏡【かゞみ】 麓【ふもと】
熊本県 鍋【なべ】 緑【みどり】 轟【とゞろき】 砦【とりで】 阿【あ】 上【うへ】 浦【うら】 川【かは】 陣【じん】 大【おほ】 渡【わたり】 浜【はま】
宮崎県 妻【つま】 憶【あふき】 綾【あや】
鹿児島県 里【さと】
以上は珍らしいものばかりをあげたのであるが、長崎県の「琴【きん】」等は読み方が珍しい。茨械県の「圷【あくつ】」は読めない。
田【た】、土【つち】、畑【はた】、苗【なへ】、桑【くは】、野【の】、園【その】、里【さと】、豊【ゆたか】等はいかにも農村にふさはしい名である。又、名からして地境が分るやうなのは、浦【うら】、灘【なだ】、麓【ふもと】、岬【みさき】、浜【はま】等であらう。
この一字名の町村は、広【ひろ】、大【おほ】、久【く】等とそれだけ言つたのでは町村と聞えないが広村【ひろむら】、大町【おほまち】、久村【くむら】とつゞけると普通に聞える。
「大」と書くのは各県にあるやうだが、「多」は少い。熊本県の「砦」は茨木県では「取手【とりで】」と二字にしてゐる。色からつけた名としては、赤【あか】、緑【みどり】。鳥の名をとつたのには、隼【はやぶさ】、鵲【かさゝぎ】、鶉【うづら】、鶯【うぐひす】等がある。
「上」と「下」とは字【あざ】の名としてはあるが、一つの町村名としては少い。しかし、「中」は沢山ある。
山梨県の「谷村【やむら】」は町であるので、「谷町」とはいはずに「谷村町」といつてゐるが、之は谷がもとで村がつき、町が加つたのであらう。【以下、次回】