礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

福田芳之助著『新羅史』(1913)の「序」を読む

2018-07-27 01:40:05 | コラムと名言

◎福田芳之助著『新羅史』(1913)の「序」を読む

 今月一七日のブログで、福田芳之助著『新羅史』(若林春和堂、一九一三)を紹介した。この福田芳之助という歴史家については詳しくない。また、『新羅史』という本の学問的な価値もよくわからない。
 本日は、同書の「序」を読むことで、福田芳之助とその著書『新羅史』について、多少なりとも知見を深めてみたい。なお、「序」を執筆しているのは、支那哲学の泰斗・服部宇之吉(一八六七~一九三九)である。


古人書ヲ著スヤ、往往之ヲ名山石室ニ蔵セリ、蓋シ聞達〈ぶんたつ〉ヲ当世ニ求メズシテ、知己ヲ後代ニ待テバナリ、故ニ其書ニ於ケルヤ、拮据〈きっきょ〉構思惨憺設想、必ズ畢生〈ひっせい〉ノ心血ヲ注ギテ、然ル後ニ成レリ。後人ハ則チ功名ニ急ニシテ、復タ古人ヲ追蹤〈ついしょう〉スルコト能ハズ、是ヲ以テ述作愈々多クシテ、其能ク後ニ垂ルモノハ則チ愈々少シ〈すくなし〉、当今ノ時、古人ニ比スベキ者ヲ求ムルモ、復タ容易ニ之ヲ得べカラズ、今乃チ福田君ニ於テ之ヲ得タリ。君夙ニ〈つとに〉朝鮮語ヲ修メ、因リテ朝鮮史ノ研究ニ志シ、公余群籍ヲ渉猟ス、尋デ〈ついで〉朝鮮ニ駐マルコト数年、遂ニ職ヲ辞シテ、宣ラ研究ニ従ヒ、前後三十有余年、朝鮮史中最モ明ニシ難シ〈あきらかにしがたし〉ト称セラルル上古史ノ研究ヲ大成ス。知友金玉ノ作、空シク篋底〈きょうてい〉ニ秘セラルルヲ惜ミ、之ヲ世ニ公ニセンコトヲ勧ム、君輙チ〈すなわち〉研鑽未ダ到ラズ、肯テ估〈こ〉ヲ求メザルヲ以テ辞ス。適々〈たまたま〉韓国併合ノ事アリ、日韓上古ノ関係ヲ明ニスルコト、最モ必要ナルノ機ニ会ス、知友前言ヲ反復シテ、慫慂〈しょうよう〉スルコト再三、君乃チ慨然之ニ従ヒ、稿本ニ就キ大ニ筆削ヲ加へテ、之ヲ印ニ附セシム。考据ノ精確、剖析ノ犀利、論断ノ妥当ナルコトハ、已ニ〈すでに〉専門史家ノ推称スルトコロタリ、予輩外漢復タ何ゾ蛇足ヲ添へン。但君ノ篤学ナル、夙ニ栄職ヲ抛チテ筆硯ヲ友トシ、名利ニ澹〔淡〕ナル研鑽三十年、肯テ蘊蓄〈うんちく〉ヲ発露セザリシ事ハ、予輩ノ最モ敬服シテ措カザルトコロニシテ、又此書ニ就キテ、特ニ推称セント欲スルトコロナリ。人能ク福田君ノ心ヲ以テ心ト為シテ、此書ヲ読マバ、其得ルトコロ ノ教訓ハ、豈ニ〈あに〉纔ニ〈わずかに〉朝鮮上古ノ史実ノミナランヤ、今ニ於テ、古人ノ風ヲ見ルヲ得タルヲ悦ビ、一言以テ此書ヲ読ム者ニ告グト云爾〈しかいう〉。
 大正二年二月二十三日
         文学博士 服 部 宇 之 吉識

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