◎三上卓・元海軍中尉から田中光顕伯爵への手紙
富岡福寿郎著『五・一五と血盟団』(弘文社、一九三三)の紹介に戻る。同書は、全七部からなるが、最後の第七部は、「事件関係者の書簡集」である。そこに収められている書簡の主およびその宛先を見てみよう(同書の目次による)。
七、事件関係者の書簡集 …………五四六頁から五六四頁…………
〔橘耕三郎〕―父より我が子へ―夫より我が妻へ―風見代議士へ―後藤信彦へ―
〔井上日召〕―田中光顕伯へ―高村忠義氏へ―小幡梅子氏へ―武田耕一氏へ―
〔三上卓〕―田中光顕伯へ―
〔大川周明〕―今牧嘉雄博士へ―
〔本間憲一郎〕―田中光顕翁へ―柴博氏へ―
〔後藤圀彦〕―大槻敬三氏へ―
〔池松武雄〕―大槻敬三氏へ―
〔林正三〕―橘徳次郎氏へ―愛郷塾へ―折々の和歌―
〔小沼正〕―兄小沼新吉氏へ―武田耕一氏へ―
〔杉浦孝〕―風見代議士へ―
〔横須賀喜久雄〕―風見代議士へ―
〔川崎長光〕―兄川崎長輝氏へ―
〔塙五百枝〕―愛郷塾へ―
〔大貫明幹〕―愛郷塾少年部―
〔黒沢金吉〕―父黒沢菊太郎氏へ―
〔菱沼五郎〕―父菱沼徳松氏へ―
〔黒沢大二〕―小沼新吉氏へ―
〔矢吹正吾〕―愛郷塾へ―
〔照沼操〕―大槻敬三氏へ―
一見して、田中光顕伯宛、風見章代議士宛の書簡が多いことに気づく。このふたりの人物は、血盟団事件関係者、ないし五・一五事件関係者にとって、それだけ、重きを置かれた人物だったということか。
本日は、これら書簡のうち、三上卓元海軍中尉から田中光顕伯へ宛てた書簡を紹介してみよう。ちなみに、三上卓〈ミカミ・タク〉は、五・一五事件でで中心的役割をはたした海軍将校で、犬養毅首相を射殺したことで知られる。
◎田 中 光 顕 翁 へ 元海軍中尉 三 上 卓
(前略)過日は一同に対し「水戸幕末風雲録」の御恵投を賜り肝謝このことに奉存候〈ゾンジタテマツリソウロウ〉。獄中朝夕静かに心読養志仕居候〈ツカマツリオリソウロウ〉邦家将に非常の時閣下の御健在を祈上候〈イノリアゲソウロウ〉
水戸幕末の志士を思ふ
恩讐を超えて大義の道を行く
みくに思ひの益らを〈マスラオ〉の伴〈トモ〉
――昭和八年十月二日――
書簡中、「水戸幕末風雲録」とあるのは、田中光顕監修・沢本孟虎編の『水戸幕末風雲録』(常陽明治記念会、一九三三)のことである。
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