礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

これを機会にご冥福をお祈りしたい(三國一朗)

2025-02-20 00:10:09 | コラムと名言
◎これを機会にご冥福をお祈りしたい(三國一朗)

『証言・私の昭和史2――戦争への道』(旺文社文庫、1984)から、「岡田首相救出秘話」を紹介している。
 三人の証言者(迫水久常・福田耕・小坂慶助)に対するインタビュー記録の紹介としては六回目【最後】。

―― なかなか、テレビドラマでも、そうはうまくいきません。
小坂 うまくいきません。
―― しかし弔問とはいってもですね、お顔を見るわけではないから、それが隠しおおせたわけですね。遠くからお焼香するだけですから。
迫水 なにしろ死骸がひどくむごたらしくやられてるから見ちゃいかんと、こういうことにしたんです。
福田 この遺骸の置いてある部屋と次の部屋の間には、しきいがあるわけです。この上に焼香台をのっけて、この死骸のある所へはいっちゃいけないと、初めにみなに命令をしてあったんです。
―― みなさんが共同謀議をなすったのは、官邸の応接間だそうですね。
福田 そうです、そうです。
―― ここは、前の五・一五事件のとき、犬養〔毅〕首相が撃たれた場所でございますね。
福田 そうです。広い部屋なんです。
迫水 とにかく奇跡っていうか、神さまがお助けくださったということ以外には、どうして成功したのかということは説明できない。
―― で、首相は、脱出してからどちらにおいでになったのです。
福田 それから溜池〈タメイケ〉までいったんですけどね、あそこまでいったら頭がボーッとしちゃってね、運転手がどこへいくのかということを聞くもんだから、まあ「右へいけ」とか「左へいけ」とかいっている間に、麻布の三連隊前にきちゃったんです。(笑)これはいかんというんで、その谷を下りて、また上に上がったでしょう。そうすると右へいけば赤坂見附、それだから「左へいけ」っていったら、高橋是清さんの家の前に出ちゃった。(笑)
―― いや、ひどい所へ出たもんですね。
迫水 福田さん一人乗っているんだ。憲兵も乗ってるんだ。それで本郷の真浄寺まで、福田さんが連れていったらしい。それでそのあと、僕は松尾伝蔵大佐の死骸を総理大臣の遺骸といいたてている立場だから、一人で官邸の中で頑張っちゃった。
―― 事態を収拾してらしたわけですね。
迫水 ええ、頑張っちゃった。そのうち福田さんから電話がきましてね、「万事うまくいった」と連絡があって、ほっとしたな。
―― それで、いよいよ首相が生存しておられるという発表があったわけですね。
迫水 それは、もう二九日ですよ。
 あれから日本は軍国主義になった。しかし今日、いろいろ若い連中が扇動にのったりして騒いでる事態を考えると、今の世の中も、なかなかむずかしいと思いますね。〝感無きあたわず〟ですね。
―― しかし、この事件の陰に亡くなられた多くの犠牲者がおられます。これを機会にご冥福をお祈りしたいと思います。
迫水 今でも、亡くなった方々のご冥福はですね、岡田の家には警察官の位牌がちゃんとありましてね、命日二月二六日には、ささやかに霊を慰めることにしております。もう三〇年もの歳月がたちましたね。   (昭和四〇年二月二五日放送)

 参考文献案内
 迫水久常著「機関銃下の首相官邸」 昭和三九年八月 恒文社 
 小坂慶助著「特高」 昭和三一年一二月〔ママ〕 東京ライフ社
 岡田啓介述「岡田啓介回顧録」 昭和二五年一二月 毎日新聞社 〈158~161ページ〉

 小坂慶助著の代表作『特高』には、少なくとも三種の版があるようだ。『特高』(啓友社、1953年7月)、『特高――今こそ私は言える』(東京ライフ社〔東京選書〕、1956年1月、『特高――二・二六事件秘史』(文藝春秋〔文春学藝ライブラリー、2015年2月)の三種である。
「岡田首相救出秘話」は、このあとに、〈解説〉があるが(161~164ページ)、今回は、これは割愛する。

*このブログの人気記事 2025・2・20(8位になぜか防共護国団、9・10位は、ともに久しぶり)
  • うまくいったのは奇跡としか思えません(小坂慶助)
  • 原田慶吉教授、米軍兵士に殴られ重傷を負う
  • 近親者の弔問客を利用できんか(福田耕)
  • 危うく声を出しそうになったほど驚いた(迫水久常)
  • 女中二人の様子が普通じゃない(迫水久常)
  • 「岡田首相救出秘話」(1965)を読む
  • 憲兵の小坂君が味方なのかわからない(福田耕)
  • 防共護国団を操った強力な政治グループとは?
  • 石原莞爾がマーク・ゲインに語った日本の敗因
  • 藤村操青年と「ホレーショの哲学」



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« うまくいったのは奇跡としか... | トップ | 原田慶吉教授の遺稿を読む »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

コラムと名言」カテゴリの最新記事