南京虫(トコジラミ)は体長5~7ミリの吸血昆虫です。赤褐色で丸く平らな形をしています。ダニよりも大きいので肉眼でも確認できます。血を吸う際に糞を出すので、左写真のような血糞(赤黒い点々の染み)が残ります。
6月下旬に害虫に布団が汚されているのを確認してから、布団を天干ししたり、床のスノコを敷いたり、殺虫剤をまいたりバルサン焚いたりしたが、全然うまく行きませんでした。その害虫も、当初はダニだと思っていたのが、より厄介な南京虫だと分かり、しかもマンション管理会社は「私が南京虫を持ち込んだ」かのように言い募る始末。それどころか、バルサン焚いた後は更にパワーアップして、夜昼ともなく室内に現れるようになりました。
もうそんな部屋には住めないので、8月18日に別の物件に引っ越す事にしました。それまでは近くのホテルで避難生活です。家賃の二重払いにホテルの宿泊費も加わり、膨大な出費になってしまいましたが、背に腹はかえれません。自分の命を守る事が最優先です。急に引っ越す事になったので、ガス閉栓の立ち合いも引越しの翌週に回しました。それまでは公共料金も二重払いになりますが仕方ありません。
そんな状況なのに、元いた部屋のマンション管理会社は8月16日まで盆休みなので、もう既に解約通知を送っているにも関わらず、退去立会手続きの打ち合わせもまだ済んでいません。もし、これでマンション管理会社が私に南京虫の駆除費用負担を求めてきたら、私も裁判で白黒決着を付けるつもりです。
その準備も兼ねて、南京虫について、もう少しおさらいをしておきます。南京虫というのは俗称で、正式にはトコジラミと言います。名称からシラミの仲間だと思われがちですが、実はカメムシやセミの仲間です(カメムシ目トコジラミ科、学名はCimex lectularius)。ベッドの下や部屋の隅などの物陰に潜んで、夜這い出てきて人間の血を吸うので、英語でベッドバグ(Bed bug)と呼ばれています。
南京虫にかまれても、最初は何も感じません。しかし、二度、三度とかまれると、猛烈なかゆみに襲われる事になります。南京虫が人間の血を吸う時に出す唾液がアレルギー反応となって現れるからです。但し、このかゆみも個人差があり、そんなに感じない人もいます。かみ口も、以前は2つあると言われていましたが、今はそうとも限りません。幸い、蚊と違って、感染症を媒介する事はありませんが、それでも、さされた人の中に、もしエイズ患者がいたら、自分もその血液で感染するおそれはあります。
南京虫の翅(はね)は退化して、自分で飛ぶ事は出来ません。腹ばいになって動き回るだけです。但し、繁殖力は旺盛で、1日に5個以上も卵を産みます。南京虫の寿命は1年足らずですが、その間に500個以上も卵を産むと言われています。南京虫は、かまれる被害よりも、むしろ繁殖を抑える方が厄介なのです。
この南京虫ですが、1965年頃までは日本にも普通にいました。その後、衛生環境の向上により、70年代には日本からは完全に駆除されたと思われていました。ところが、21世紀に入り、グローバル化の進展によって、外国人観光客が日本に大量に押し寄せるようになると、再び南京虫が日本に住み着くようになりました。
特に2007年頃からは、大都市部のホテルや病院を中心に、南京虫の害が報告されるようになりました。東京都の統計によると、都内の保健所に寄せられた相談件数は、1997年から2001年までは130件だったのに対し、2007年から2011年には793件と、約6倍以上に急増しています。
姿を消していたトコジラミがインバウンドブームで強力復活(日刊ゲンダイ)の他、ウィキペディア、「トコジラミ読本」、東京都・ダスキンのホームページなども参考に。
これだけを見ても、「南京虫を私が外から持ち込んだ」とするマンション管理会社の言い分が、何の根拠もない決めつけである事が分かると思います。「日本では駆除されて住宅にはいない」はずの南京虫を、外国に行った事もない私がどうやって「外から持ち込める」と言うのか。
そこに西成あいりん地区の特殊事情が加わります。大阪市西成区の新今宮駅の南側に広がるあいりん地区は、西日本でも有数の日雇い労働者の街です。生活環境は劣悪で、その為に、日本ではとっくに根絶されたはずの結核が、ここでは依然として猛威を振るっています。無料の結核診療所が今でも活動しているのが、その何よりの証です。
ここでは南京虫も、日雇い労働者が住むドヤ(簡易宿泊所)や福祉アパートを中心に、今でも猛威を振るっています。そのドヤを外国人観光客向けに改装したホテルも、小ぎれいになっただけで、造りそのものはドヤと変わらないのですから当然です。そこに外国人が持ち込んだ南京虫も加わり、今や西成区は大阪市内の中でも最も南京虫の被害が多い地域となってしまいました。
私の今まで住んでいた部屋も、ドヤや福祉アパートではありませんが、築34年の老朽マンションで、隣に住んでいるのもベトナム人です。入居当初から廊下の窓は開けっぱなしで、雨水が入り込み壁紙がめくれあがっていました。それに加え、横の階段の天井も穴が開き、雨漏りしているような状態です。私がマンション管理会社に改修を要望してからも、ずっとそのままでした。(前回記事参照)
建物を荒れるがままにして来た自分たちの管理不行届きを棚に上げ、さも「私が南京虫を外から部屋の中に持ち込んだ」かのように言うマンション管理会社の言い分は、もう言いがかりとしか思えません。もし退去に際して、先方が私に駆除費用を請求して来たら、私も二重払いを強いられている家賃やホテル代、公共料金を先方に請求するつもりでいます。
最後に。南京虫を市販の殺虫剤で駆除しようとしても無駄です。バルサンなぞ焚こうものなら、かえって南京虫の害を広げる事になりかねません。何故なら、バルサンの煙や霧では、室内の隅々にまでは行き渡らないからです。南京虫は、更に壁紙の隙間やコンセントの穴に入り込み、バルサンの煙がなくなった後は、前にも増して室内を我が物顔にのし歩く事になります。
今の南京虫は、昔の南京虫とは違って、市販の殺虫剤では殺せません。たとえ、殺虫剤の効能書きに「南京虫にも効く」と書いてあっても、です。駆除業者は、市販では売ってないような強力な殺虫剤で、駆除しなけれなならなくなっています。それでも、一度では駆除しきれず、二度、三度と駆除しなけれならなくなっています。
その中で、個人で出来るのは、殺虫剤を南京虫に直接散布し、仮死状態となった南京虫をティッシュで摘まんで屑籠に入れるぐらいです。後は、南京虫の好む黒系統の服を着るのは避け、夜も照明を消さずにアイマスクして寝るぐらいです。こんなもの、個人で対処するのは無理です。
大阪府や大阪市も、「新今宮ワンダーランド」と称する観光キャンペーンにお金や人や時間を費やす暇があるなら、何故、南京虫の駆除にもっと本腰を入れて来なかったのか?害虫の駆除もろくにしないまま、「来ればだいたい、何とかなる」と言って、観光客をホテルに呼び込むのは、詐欺と同じではないですか。
私物の運び出しもようやく終わり、今、室内に残っているのは、粗大ゴミとして処分する予定の、スノコやカラーボックス、座卓、座椅子のみです。このスノコも、防虫対策として通販で買ったのに、わずか一週間で南京虫の糞・卵まみれになってしまいました。