民主党が、今度の衆院選のマニフェストで、「日本の農林漁業・農山漁村の再生」と「FTAの推進」の2つを、農業政策の柱として掲げている事を知りました。
はっきり言って、このニュースには我が目を疑いました。これでは、何故この前の参院選で、地方でも自民党が負けて民主党が躍進したのかが、当の民主党自身も全然分かっていないのではないかと、言われても仕方がありません。分かっていたら、こんな「自民党の後追い心中」を図っているとしか思えない様な言説を、わざわざ選挙直前の時期に、口にする筈がありません。
成る程、民主党が農業政策で述べている事は、前段については、全くその通りです。曰く、「農業後継者の減少や耕作放棄地の増加、食糧自給率の減少は、それまでの自民党農政に因るものだ」と。「民主党は、その自民党の悪政を転換して、戸別所得補償制度等も導入して、日本農業の再生を図る」と。
しかし、前段で折角そう書いておきながら、後段では一転して、下記の様な矛盾した事を書いているのですから、何をか況やです。「民主党よ、お前の本音は一体どっちなのかよ?」と聞きたくなります。
>一方、民主党は、従来から、農林漁業・農山漁村を含めた日本の経済社会全体が今後とも発展していくためには、WTOやFTAの交渉促進等、世界とのよしみを通じていく必要があるとの方針を貫いてきたところである。同時に、そうした交渉を行う際には、農林漁業・農山漁村のこれ以上の衰退を招くような事態は絶対に避けなければならないとの姿勢も堅持してきたところである。
>民主党は、これまでの自民党政権のおかげで先進国で最も開かれた農林水産物市場となっている現状を踏まえ、FTA交渉においては、農林水産物に関して米など重要な品目の関税を引き下げ・撤廃するとの考えを採るつもりはない。(同党のマニフェストより)
http://www.dpj.or.jp/news/?num=16686
何か、分かった様な、分からない様な言い回しです。「農林漁業・農山漁村のこれ以上の衰退を招」きかねない様なWTO・FTA交渉なら、最初から拒否すれば良いでしょう。それを、自分から相手の尻馬に乗りに行くかの様に、「農林漁業・農山漁村を含めた日本の経済社会全体が今後とも発展していくためには必要」だとか、「世界とのよしみを通じていく必要がある」とか言う美辞麗句で取り繕っておきながら、そのくせ「交渉を行う際には、農林漁業・農山漁村のこれ以上の衰退を招くような事態は絶対に避けなければならない(だからご安心を)」などと、最初から予防線を張りまくっているのですから。
これでは、労組が春闘前に、「これまでの賃下げには一切歯止めがかからなかった、しかし次の賃下げは認めようと思う、但し出来るだけ歯止めをかけるから」なぞと詭弁を弄して、闘う前から要求自粛を取り繕うのと、全く同じ姿勢ではないですか。
そもそも、FTA・WTOや、その大元にある「自由貿易」の実態を、少しでも知っていたら、こんな「経済社会の発展」や「世界のよしみを通じて」なぞという奇麗事(詭弁)なぞ、のうのうと口に出来る筈がありません。
多国籍資本が、超大国の覇権を笠に着て、第三世界の農民から農産物を買い叩き、それをジャンクフードに仕立て上げて、全世界の貧しい消費者に「安かろう悪かろう」で売りつける。それを、まるで生産者と消費者による自然(自由)な契約であるかのように取り繕っているのが、「自由貿易(資本主義・帝国主義)体制」であり、その下でのFTAやWTOではないですか。
食品の日付・産地偽装も、中国餃子事件などの食品公害の問題も、メキシコ豚インフルエンザ発生で明るみに出た環境汚染の問題も、遺伝子組み換え作物や発がん性の問題も、子供の食生活の乱れや味覚異常や肥満の広がりも、食糧自給率低下の問題も、先の山口・九州等での土砂災害の遠因ともなった国土荒廃・農業衰退の問題も、地球温暖化や砂漠化、第三世界の飢餓や累積債務の問題も、その大半が自由(実際は格差)貿易に由来するものではないですか。
例えば、スターバックスの1杯330円のコーヒーのうちで、原産国エチオピアのコーヒー栽培農家の取り分は、僅か3~9円にしか過ぎません(映画「おいしいコーヒーの真実」参照)。残りの利潤の大半は多国籍企業の懐に入ります。そんな仕組みの、一体何処が「公正・自由・豊か」なのでしょうか。「経済社会の発展」や「世界のよしみ」に通じるのでしょうか。実際は、そんな仕組みを、フェアトレード推進などの実践を通して、もっと真に公正で自由で豊かなものに変えていけてこそ始めて、「経済社会の発展」も「世界のよしみ」も実現できるのではありませんか。
勿論、その大元を作ったのは、これまでの自民党農政であり、しかも今もFTAやWTO・EPAの「早期妥結・積極交渉」を口にしながら「農業・農民にも配慮」なぞ言って誤魔化している自民党に、今更民主党を非難する資格はないのですが。しかし、「お前になんぞ言われたくは無い」と言って自民党を非難している民主党も、それまでの自民党農政の枠組みから一歩も出ないのでは、一体何の為の「政権交代」なのかと。
民主党農業政策の一枚看板である戸別所得補償制度等も、それで農家が農業やる気になって始めて意味があるのに、肝心の農業は荒れるにまかせて、単なる農家の失業対策や不満封じ込めの為の飴玉として意味合いしかないのであれば、自民党の天下の愚策たる定額給付金制度導入と、似たり寄ったりでしかないのでは。
メキシコに端を発した豚インフルエンザは、マスコミによって新型インフルエンザなどの当たり障りの無い呼称に変更されましたが、NGOの間では、NAFTA(北米自由貿易協定)の下でのメキシコ国内農業崩壊、米系資本による環境破壊によって引き起こされたものだという意味で、「NAFTAインフルエンザ」の別名で呼ばれたりしています。その伝で言うと、次に日本で再発する豚インフルエンザの別名は、差し詰め「JAFTA(日米自由貿易協定)インフルエンザ」と呼ぶのが相当ではないでしょうか。
しかし、こんな民主党のしょうもないチョンボの所為で、自民党が息を吹き返したとしたら、これほどバカらしい事はありません。これが、目先の政権交代欲に駆られた末の公約後退に因るものだとしたら、余りにも国民をバカにしています。そんな民主党には、もはや何の存在意義もありません。かつての新進党や村山社会党みたいに、空中分解してしまえば良い。自民党なんて、別に民主党の力を借りなくても、遠からず瓦解する運命にあるのですから。
(参考記事)
・「日本の農林漁業・農山漁村の再生」と「FTAの推進」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/news/?num=16686
・民主党、米国とのFTA締結をマニフェストに!「一回変えてみよう」の代償は巨大(農と島のありんくりん)
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-4881.html
・民主党日米FTA締結マニフェストの続報!農村はテンヤワンヤ(同上)
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-89bd.html
・民主党の本音 日米FTA「推進」マニフェスト 民主党の農業政策の頭脳篠原孝衆議院議員のびっくり発言録(同上)
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/07/post-ba16.html
・麻生首相が自民政権公約/農業所得を増大、貿易交渉は農業に配慮(日本農業新聞)
http://www.nougyou-shimbun.ne.jp//modules/bulletin/article.php?storyid=2909
・豚インフルエンザを巡る隠蔽と扇動(拙稿)
http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/e0a0c2b3a5b095699c240072687e0d5a
・NAFTA13年目 メキシコ農業の実情(上・下)(農民連)
http://www.nouminren.ne.jp/dat/200612/2006121102.htm
http://www.nouminren.ne.jp/dat/200612/2006121804.htm
・WTO・FTAから食糧主権へ(1・2)(同上)
http://www.nouminren.ne.jp/dat/200702/2007020510.htm
http://www.nouminren.ne.jp/dat/200702/2007020511.htm
・映画日記「おいしいコーヒーの真実」 スタバのコーヒー豆を栽培している地域の飢餓・・・(ホンダマチコの関心事)
http://ponpoconew.at.webry.info/200809/article_5.html