本と映像の森 258 宮崎駿さんアニ眼映画「風立ちぬ」を観ました
今日が全国封切りの、宮崎駿さんの映画「風立ちぬ」を則子さんと次女と3人で、今日の最終、ザザで午後9時から観ました、というか「体験」しました。
堀辰雄さんの小説「風立ちぬ」と零戦の設計者・堀越二郎さんをドッキングさせて描いたアニメですが、宮崎さんが初めて「現代史」に挑んだということで、期待して行ったら、期待以上でした。
とにかくアニメの映像が美しいです。実写よりも美しいです。たとえ、実写でも、監督や俳優やカメラマンの眼や心が曇っていれば、美しい映像は撮れませんね。そういう「美しくない」「汚れた」映画が多いのではないですか?
たとえば、二郎さんと菜穂子さんが結婚するシーン。菜穂子さんが廊下を歩いてくるシーンは、菜穂子さんの着ている婚礼の着物は少しくすんだピンクなのですが、部屋で待つ二郎さんが部屋から、ガラスを透かして見た瞬間に、菜穂子さんの着物は明るい赤に、一瞬で変化します。
つまり、二郎さんが見た、「新妻」菜穂子さんの映像ということです。
基本ストーリーは、「二郎」の少年時代から始まって、二郎が大学時代に関東大震災に遭遇し、「菜穂子」に出会い、10年後、軽井沢で「菜穂子」と出会って…という恋物語と、二郎が現実にたどったリアルな戦闘機設計者の物語です。
それに、二郎さんが少年期から何回か見る「夢の世界」で遭遇する、イタリアの陽気な飛行機設計者との「夢の草原」、その3つがからまって物語は進行します。
つまり、3つのストーリーが縦糸で、さらに二郎さんと親友・同僚の本條さんが留学するドイツ(ユンカースなど)・日本・イタリア(夢の草原)を横糸にして、とても素敵な物語になっています。
ちょっと欲求不満なのは、終わりの方がかなり「はしょって」いて、零戦の開発や零戦の破綻や太平洋戦争の終末をほとんど描いていないことでしょうか。二郎さんと菜穂子さんの終わりも。
宮崎さん、2時間では足りませんでしたね。もう少し、戦前日本の終末を描いて欲しかったな。
ラストシーンは、イタリア人設計者との「夢の草原」で、まるで「風の谷のナウシカ」の「腐海」で巨神兵の残骸が横たわっているようなシーンです。
草原に日本軍の飛行機の残骸が横たわっているなかを、二郎さんが歩いていき、丘を越えると、イタリア人設計者に会います。
以下、ネタバレはやめますが、推薦アニメ映画です。
宮崎さんの最高傑作とボクが思っている「ハウルの動く城」を越える傑作かもしれません。いや、そうじゃなくて、30年前の「風の谷のナウシカ」に、まるで回帰したような作品かも。
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いちばん印象的なのは、関東大震災で大都会が猛火に包まれたり、飛行機が敵の戦闘機の襲撃で燃え上がったり、実験機が墜落して燃え上がったり、都市が爆撃されたり、という凄惨な被害のシーンをリアルにじっと見ていることですね。
それはラストの「残骸が散らばる夢の草原」に結実しています。
明日、いやもう今日ですか、参議院選挙の投票日です。投票者にも、すごく大事なことを強く訴えているアニメ映像であったと思います。
宮崎さん、ありがとうございます。
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仕事が忙しい中で、夜おそく、寝たきりの菜穂子さんが待つ、離れの新居(しんきょ)に設計図を持って返って来る二郎。菜穂子の寝ている布団の横で机に設計図を広げる二郎。
菜穂子は「もっと近くに来て」と言って、「手をください」と言います。
左手を菜穂子に出して手をつなぎあうふたり。
仕事をしながら「ちょっとタバコが吸いたい」という二郎。
「だめ。ここで吸って」と、ギュッと手を握って離さない菜穂子。
仕方なく、左手で菜穂子の手をにぎったまま、右手でタバコを吸う二郎。
☆
今でも、ときどき、手を握って寝てしまうぼくたちですので、ボクはこういう映像、どういう発想で撮ったんだろうと、感激します。
とっても大事な時間でしたね。二郎さんと菜穂子さんにとっても。ボクと則子さんにとっても。
写真は次女が映画館で買って、月曜日に作った紙飛行機です