新・本と映像の森 32(哲学1) 井尻正二『銀の滴金の滴』築地書館、1981年
213ページ、定価1200円
とても面白いエッセイ集。
< 目次 >
Ⅰ 生活のあなかで、
Ⅱ 教育の原野、
Ⅲ 人の心、
Ⅳ 科学者の世界、
Ⅴ 哲学の泉、
Ⅵ 青い鳥をもとめて
著者111冊目の著書。ただし共著をふくむ
たとえば、「理屈や法律は、他人が勝手につくったもので、自分が創造したものではない。したがって、それらに従う理屈は絶対にない、という理屈がなりたつ。」(Ⅰ、理屈)
ゆえに、井尻さんの理屈に、ボクが「従う理屈は絶対にない、という理屈がなりたつ。」というわけである。
☆
いちばん紹介したいのは、フクロウとニワトリのはなしである。
よくヘーゲルの言葉として「ミネルバのフクロウは、たそがれがやってくるとはじめてとびはじめて飛はじまる」(ヘーゲル『法の哲学』「序文」)
それに対して、井尻さんは「われわれにとって必要な哲学は「天神様のニワトリは、暁とともに鳴きはじめる」たぐいのものでなくてはならない。」
これは、まったくそのとおりである。
☆
著者は古生物学者で、戦後結成された「地団研(地学団体研究会)」の指導者です。というより、ボクにとっては岩波新書の『地球の歴史』『日本列島』『化石』の著者として、とてもなじみがある。
その後、長いあいだ、地質学などを読んだことがなかったので、大陸移動説やプレート・テクトニクスの消長にも、うとかった。
最近になって、その大陸移動説やプレート・テクトニクスに、地団研(地学団体研究会)が反対を続けたというのを知って、驚いた。
この本の162ページを引用しよう。
「大陸移動説は、アメリカ生れの海洋底拡大説と同盟をむすび、現在では「国定教科書」ー文部省検定済み教科書の古名ーなみの権威をもって学界に君臨している。」
「しかし、大陸移動説も、海洋底拡大説も、まだ法則として確立した(確認した)ものでもなければ、ましてや科学的事実でもなく、まだ仮説の段階にある一学説だ、と私個人は考えている。」
主要部分は、これで全部である。はたして、1981年という時点に、このような「仮説」認識が成り立つのだろうか。
どうも、この部分は『科学論』の著者らしくない。
反対なら反対で、書くものがかなりの率で本になる井尻さんなら、科学者らしく反論本を書けばいいのではないか。
事実と資料に基づいて、150ページに著者が「科学はまず「事実」からはじまる」と書いているように。
あるいは、地団研(地学団体研究会)が書いた反論があるのかも知れない。だれか、知ってる方があったら、教えてくください。
なお井尻さんは、1999年に亡くなられました。