新・本と映像の森 41(マンガ3・SF8) 手塚治虫『火の鳥 10<太陽編 上>』角川文庫
角川書店、1992年、原著1986年、247ページ、定価本体505円。
傑作「火の鳥」の「太陽編」は、古代の戦場シーン、いや戦闘が終結した直後の悲惨な戦場シーンから始まる。
あの古代日本史の画期をなす敗戦を、日本の歴史家はわづかだけ触れ(いずれ「新・本と映像の森」で扱う)、芸術家はほとんど描かないなかで、手塚さんだけは、正面からこの敗戦を描いた。
そのことの大事さを指摘しておく。
唐・新羅と百済・倭との戦争が、百済・倭の大敗・百済の滅亡に終わり、負けた者たちが半島を捨てて日本へ逃げていく、そんな時代の物語である。
百済の王族の若者ハリマは、偶然から死刑を免れて、顔の皮膚をはがされ、被された狼の頭がひっついて、離れなくなる。
逃亡者となったハリマは、薬医師のおばばや倭の大将軍・阿倍引田比羅夫といっしょに小さな船で、日本へ逃れる。
よくも手塚さんは、朝鮮人の若者を主人公にできたものだ。
☆
「太陽編」のタイトルは、太陽をシンボルに新宗教を創出する天武天皇と、もうひとつはるか未来の日本宗教国家からもきている。
それは「太陽編(中)(下)」で紹介しよう。
物語のおもしろさ、人物の造形の点からも、すてきな作品であると思う。