自分史 物怖じしない国際人を育てるヒント集

近現代史に触れつつ自分の生涯を追体験的に語ることによって環境、体験、教育がいかに一個人の自己形成に影響したか跡付ける。

垣間見た都会生活

2011-02-08 | 体験>知識
11,12歳・・・ブラジル生活最後の1年間、土、日はY叔父宅で過ごすこと
が多くなった。
灯火から電灯へ、自家製パンからパン屋の焼き立てパンへ、ポットンから
水洗トイレへ、家の中の生活が一変した。
都会と田舎の生活を交互に繰り返しながら、わたしは、いつもながらに鈍感
なのか、どちらにも順応し、都会の便利でクリーンな生活に惹かれることは
なかった。
市の中心部は石畳で舗装されていた。様々の商店の中には日系の商店も
あった。
輸入が再開され少年倶楽部の新刊が入るようになったのでよく行く文房具屋
があった。
そこではじめて万引きを見た。
3人の白人ハイティーンが入ってきて陳列ケースの中のナイフをあらためる
振りをして元に戻した。
店番の日系青年が6本入れていた箱に5本しかないことを告げると、3人は
肩をすくめて立ち去った。
田舎ではただの一度も犯罪を見たことも聞いたこともなかった。
その田舎から市街に通う、人家から遠い路上でわたしも犯罪被害者になり
そうになった。
街に向かう途中自転車がぬかるみで立ち往生した。
ブラジルの赤土はぬかるむと車もチェーンをつけないとエンコする。
対面から来た裸馬に二人乗りした白人ハイティーンが手助けしてやると言って
自転車にロープを掛けて馬で引っ張りはじめた。
進行方向が逆だったのでわたしは盗られると直感して大泣きした。
近くの白人農夫が駆けつけたので二人は立ち去った。
農夫は家まで自転車を担いでいってわたしを危なかったなあと慰めてくれた。
後日父が馬車を借りて自転車を引き取りに行った。
他人の情けが身にしみただけでなく貧しい敬虔なカトリック信徒に出会った
初体験だった。