「風と赤子と」
白いレースのカーテンが
慌てた生き物のように動きだす
さっきまでは寝ぼけ眼で
部屋をうかがっていた
初夏の風 その目覚め
くすぐったい風を歓迎する
マシュマロのような小さな手足
ミルクの匂いの二人の赤子
風が睫毛に触ったと
くすぐったく笑う歯は
まだ生えたての柔らかさで
どこかで生まれ
どこへでも吹いてゆく風は
ずっとずっと昔からの
大地の木々の海の人の
親愛なる昔馴染み
だから赤子にも挨拶に来てくれた
それで嬉しくなって
ばたばたと手足を動かす赤子
風はあやすことを楽しんで
次から次へと窓に押し寄せる
風は饒舌に伝えてくれるかな
世界がどれだけ素晴らしいのか
僕の幾千もの言葉よりも
一吹きでそれを教えてくれる
赤子は風の話に
素直に耳を傾けている
甲高い喜びの声も
風呂敷に包むように
きっと持って帰るよ
こんな赤ん坊もいたのだと
これから生まれくる赤子への
土産話にでもしようと
まだ 風の方からやってきて
手足を触られている赤子
やがて自分の足で立つときには
風を追いかける人になる
まだ見ない広い広い世界へと
風に誘われて 心躍らせて
走ってゆく人になる
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