jazz and freedom and avenger

勝手気ままな戯事日記 暇つぶしに・・・・

遅れ馳せながら追悼を ・・・・・STANLEY COWELL

2021-09-01 | ジャズ・p

STRATA-EAST SES 19743

1973.12.10&11

その昔、都会のビルとビルの谷間、昼間でも光が差し込まず、稀にすれ違う人の顔さえ分り難いほど暗くて細長い路地奥に‘グッドマン’というジャズ喫茶があった。
5、6人も入れば酸欠状態になるほど、ひょっとしたら、日本で一番小さかったかもしれない。

狭いが故にSPは天井にぶら下がったように壁面の上部に取り付けられていた。イギリスの‘LOWTHER’(ローサー)というバックロードホーン方式のスピーカーで、当時、オーディオ通の間で、このSPの性能を100%引き出すのは、なかなか手強いと、ちょっと評判のものでした。

乾いた音なのに、彫が深く陰影に富み、音量の大小に関わらず楽器のエッジは崩れなかった。アンプは記憶違いでなければ、たしか、ラックスの球だったと思います。

冬の寒いある日の午後、ぶらっと寄った。扉を開けると、正面に一人の男が座っていて、サングラスに長髪、顎鬚を伸ばしていた。一見、芸術家タイプに思えた。斜め前に座って暫くすると、本作がかかった。内容の良さは知っていたが、ジャズ喫茶で聴くのは初めて。暫くして、いつも自分の部屋で聴くカウエルとはちょっと違う事に気が付いた。

ピアノの一音一音が、アラベスク・タッチのカヴァのように色彩感に満ち、壁に乱反射し空間を埋め尽くし始めた。三曲目の‘Prayer for Peace’に入り、不意に甘いメロディの後、テンションを徐々に高めていくカウエルのpに脳細胞の一つ一つがカラーリングされていくような錯覚に陥った。

針がアップされ、一瞬の静寂後、男がフッーと息を小さく吐き、「ええなぁ~」と低く呟いた。そして、扉の向こうへ消えていった。この男がリクエストしたのだろうか?

次のレコードに替えられるまで、僕はこの印象的なカヴァの顎髭のラインが架かった左手の微妙な角度と指先をじっと眺めていると、まるで催眠術にかかったように急に睡魔に襲われ眠ってしまったのだ。

ふと我に返ると、かなりの時間が経っていて、慌てて外へ出ると、真っ暗な路地を隙間風がピュー、ピューと吹き抜け、その音に交じって「ええなぁ~」という声がビルとビルの間に「こだま」していた。
 
その時から、この作品は、グッドマン、ローサー、そしてカウエルが三位一体となった忘れられない「一枚」となった。

 

HP”Bluespirits(2008. 11. 2より加筆転載)

 

レコーディング・デヴューした”WHY NOT / MARION BROWN”(ESP ・1966年)

 

MUSIC INC.の実質的1st盤 ”THE RINGER / CHARLES TOLLIVER”(POLYDOR・1969年)

 

この二枚でCOWELLの魅力にぞっこん惚れ込み、嵌りました。

2009年1月、C・トリヴァーのビッグ・バンドで来日し、ライブ・ハウス”STAR EYES”(名古屋・覚王山)で元気な姿を見せ、素晴らしいプレイを聴かせてくれました。

最高の思い出です。

 

2020.12.17  天に召される。享年79。

R.I.P. STANLEY COWELL

 

 



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2 コメント

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Unknown (cpwkn442)
2021-09-02 07:50:20
ご無沙汰しております。名古屋在住のcpwkn442です。「グッドマン」懐かしいです。確か伏見の辺りでしたっけ。高校生の頃、ジャズは全然聞いた事が無いのに一度だけ伺ったことがあります。今池には「イースト・グッドマン」というお店が有った様な記憶が有ります。ダイエーの南側にあるビルで、小生はそのビルに有った「時計仕掛け」というロック喫茶によく通っておりました。
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Unknown (avengerv6)
2021-09-02 10:38:57
お久しぶりです。
「グッドマン」をご存知の方からのメール、嬉しいです。モダン・ジャズの世界を絵に描いたようなあの雰囲気の店は、もう出てこないでしょうね。「イースト・グッドマン」の名は、自分も記憶がありますが、ハッキリしません(笑)。ロックの「時計仕掛け」、こちらも名は聞いたことがあり、同じビルだったのですね。ただ、名を思い出せませんが今池の違うジャズ喫茶にいったことがあります。
懐かしい思い出が蘇ってきました。
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