巨大な岩壁が目の前にある。
よく見ると岩壁ではなく、それは砂層で、ときどきさらさらと表面が崩れ落ちている。
上には、楼閣というほどのものではないが、大きな建物が並んでいる。
この風景から危険を感じるのは、そこにしゃがみこんでいるからだ。
立ち上がれば、たちまち錯覚は消し飛ぶ。
むかし、何かにつけて視野を広げよと力説する評論家がいた。
視野と言ったのでは、一点から見るものの見方に聞こえる。
いつまでもしゃがんでいないで立ち上がって見るのは、視点を移動することだ。
見つめる位置を変えれば、ものごとは違って見えてくる。
上から目線、カメラ目線、消費者目線などという、業界用語の一夜干しのような言葉は使いたくないけれども。
自分が見ようとする姿を決め付けてしまえば視点は固定する。
固定視点からものごとを見て、それが実態だと言い募るのは錯覚陶酔、お化け屋敷のお楽しみと大して変わりはなさそうである。