私は昨年2014年6月まで、中国で4年間日本語を教えていました。
赴任した江西省は「農業大省」というニックネームがあり、
農業中心の、つまり、改革開放経済政策でいち早く発展した沿岸部とは
はっきりとした経済格差がある地域でした。
日本人も上海などに比べてたいへん少なく、
省都南昌市全体でも数十人いるかなという程度だったと思います。
私が就労した江西財経大学日本語学科の日本人は私だけでした。
新一年生のほぼ全員は、生まれて初めて生の日本人を見るので、
最初の授業は皆ドキドキして、緊張しているのがひしひしと伝わってきます。
(怖くないかな、ひげを生やしていないかな)
など、まるで日中戦争時代の日本軍人の姿を想像していたと、
ずっと後になって、ニコニコ笑いながら教えてくれた子もいます。
思考力も深まり、日本語の表現も身につくので、
私は学生に作文を書かせることを日本語学習指導の中心の一つにしていました。
2012年春、ある学生が
宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」を観ての感想を書きました。
その中にあった「日本人も汚染も戦争もない世界に憧れているんだね」
という言葉を今でも忘れることができないでいます。
私たちは、こんなに近所の国同士なのに、
国の政治家の煽りに惑わされ、
お互いに相手を知らなさすぎること、
知らないくせに勝手に想像して敵愾心を抱きがちなことを、
今、さらに強く感じています。
2012年は日本が東日本大震災と福島原発事故に襲われた翌年でした。
この作文を書いた潘梅萍さんの学年は、
日本語学科の他の学年に呼びかけ、
「東日本大震災の被災者を思う会」を3月11日に開いてくれた学年です。
2012年3月11日江西財経大学麦蘆園で
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「一緒にユートピア作ろう」
——ナウシカから学んだ命・自然への労わりー
江西財経大学日語10班 藩梅萍
「李さん、こちらから行こうよ。」
「ええ?潘さん、どうして遠回りするの?もう授業始まるよ。」
いつも授業に出るとき、芝生を通っていた。芝生の向こうは教室だ。芝生の傍には教室に通じるアスファルト道路があるが、利用する人が少ない。芝生の真ん中にはみんなに踏まれて、いつの間にかできた小径がある。おそらく授業に遅れるから、よくみんなはこの小径を通るのだろう。しかし、小径と比べると、アスファルトの方にかかる時間はただ一分しか遅くない。
私は以前、芝生を踏むなどという、ちっこいことに気が付かなかった。でも、宮崎駿の作品「風の谷ナウシカ」というアニメをきっかけに、私の考えは変わった。
「風の谷のナウシカ」は人間と自然の関係がテーマになったアニメだ。この作品は、自然を壊し続ける人間たちに対して、心の奥まで届く警鐘を打ち鳴らしている。アニメでは、腐海の森に住む王蟲が、森林を守るために町を襲った。町は砂漠のような廃墟になった。
その場面を見たとき、私は胸が痛んだ。この廃墟はアニメの中だけではなく、私たちの身の回りに存在する風景だ。昨年三月に起きた東日本大震災は、まるで昨日の事のように思われる。この大震災は日本だけの問題ではなく、世界中の人々に、自然とともに生きることの難しさと大切さを、強烈に問いかけたものだと思えてならない。
私の故郷は広西チワン族自治区にある。子供の時、私は友達とよく村の川で泳いだものだ。川は澄みきって、青い空が映った。風の谷みたいな美しい村だ。けれども、今は川で泳ぐ人はいない。川の水は生活排水で汚染され、河岸は生活ごみで囲まれている。もう再び、故郷で澄みきった川を見ることはできないのだろうか。
アニメの風の谷は、最後は主人公のナウシカに守られた。でも、私たちの町は誰が守ってくれるのか?それは私たちみんなの責任だ。アニメの最後では、自然の守り手王蟲とナウシカが、金色の野に組んで立ち、とてもきれいで平和な場面になる。私はその光景に心が揺さぶられ、いつまでも胸に焼き付いた。
中国人は古来、桃源郷に憧れている。日本アニメの風の谷は中国の桃源郷のような、汚染も戦争もなく、自然と人が幸せに暮らしている美しいユートピアだ。その同じユートピアの夢を持つ中国と日本の人たちがしっかり手を結び、一緒にそのきれいな夢に向かって努力していったら......。
中国と日本はアジア、さらに世界で重要な役割を果たす国同士だ。そして、中日は一衣帯水の関係で隣国なんだから、あえてお互いに排斥し合う必要はないはずだ。2011年、「第六回中日省エネルギー合作フォーラム」が北京で行われた。このフォーラムを通して、環境問題に対する様々な対策が話し合われ、優れた環境処理技術の提携など具体的な多くの計画について両国は合意できた。たとえば、日本では全国のどんな小さい村でも、ごみの分別収集が徹底している。まず、その点で我が中国は日本に学ぶべきだ。
今、世界的に環境問題が深刻化する中、両国とも課題が目の前に山積みされているのだ。だから、いがみ合わず、仲よく手を取って、ユートピア作りを目指そう。そうしたら、中日関係も平和に進展するし、世界の環境保護への深い影響を生む。
私自身も環境意識を高めなければならない。それから、是非とも周りの人に「風の谷」のような日本アニメを勧め、アニメを通じて、日本と日本人への理解を深め、環境意識も高めたい。
一寸の芝生を踏むな、一枚の紙を無造作に捨てるな。それは私たちが日ごろからできるはじめの第一歩だ。
「日本人も、汚染も戦争もない世界に憧れているんだね。」
私の親友が「風の谷のナウシカ」を観た後、ぽつりとそう言った。この言葉を日本の人たちにも言おう。
「中国人も、汚染も戦争もない世界に憧れているんだよ。」と。
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