沖縄県の南部地区(糸満市・八重瀬町)から、辺野古新基地建設のために大量の土砂が調達されようとしている。しかし第2次大戦当時、多くの人たちが犠牲になり、今も遺骨が残っている南部地区の土砂を軍事基地建設のために使うことは、戦没者を冒涜するものであり絶対に認められない。
昨年10月、魂魄の塔横での新たな鉱山(石灰岩の採石場)の開発が始まった。しかし、いくつもの法令に違反した工事だったため、県や糸満市が中止を指示し、いったん作業は止まった。ところが、いよいよ再開に向けての手続きが急ピッチで進んでいる。
このままでは土砂採取が始まってしまう。そのため、沖縄平和市民連絡会は、昨日(1月26日・水)、沖縄県に要請書を提出し、交渉の場を設定するよう申し入れた。
以下、要請書の全文を掲載する。
沖縄県知事 玉城デニー様 2021年1月26日
糸満市・「魂魄の塔」横での土砂採取の中止を求める要請書
沖縄平和市民連絡会
代表世話人: 高里 鈴代 宮城 恵美子
真喜志 好一 松田 寛
日頃、県民本位の県政を進められていることに敬意を表します。
沖縄防衛局が辺野古新基地建設事業の設計概要変更申請書を提出し、辺野古埋立のための土砂採取地を沖縄県内全域に広げることが明かになりました。特に、南部地域(糸満市・八重瀬町)からは、県内全域の調達可能量の7割もの土砂調達が可能とされたことから、各地で新たな土砂採取の動きが始まっています。
しかし、南部地域一帯では、先の大戦で多くの県民が犠牲となり、今も多くの遺骨が残されています。県民の間には、南部地域の土砂を軍事基地建設に使うことは、戦没者への冒涜だという怒りの声が高まっています。
糸満市・「魂魄の塔」横の斜面(熊野鉱山)では、昨年、沖縄戦遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」による遺骨収集作業が行われていましたが、突然、自然公園法、森林法、農地法に違反した開発行為が始まりました。そのため、沖縄県環境部も昨年11月、自然公園法に基づく工事の中止を指示したところです(糸満市も森林法、農地法等に基づく指導をしています)。
ところが、昨年末、業者から自然公園法に基づく開発の届出書が糸満市に提出され、糸満市は本年1月20日、届出書を県に送付しました。県は、「基本的に届出に形式上の問題がなければ受理する」と説明していると報道されています。県が届出書を受理すれば、30日後には、現地の開発行為が可能になってしまいます。
この一帯は、自然公園法に基づき、沖縄戦跡国定公園に指定されています。沖縄戦跡国定公園の趣旨は、「第2次大戦における日米両国の激戦地として知られている本島南部の戦跡を保護することにより、戦争の悲惨さ、平和の尊さを認識し、20万余りの戦没者の霊を慰める」ために制定された」とされています(沖縄県森林管理課のホームページより)。
現地は「魂魄の塔」の横で、「平和創造の森公園」の「東京の塔」の直下ですから、土砂採取が行われれば「魂魄の塔」や「平和創造の森公園」に向かう道路にダンプトラックがあふれます。また、「平和創造の森公園」の丘陵の斜面を削り取るのですから、周辺の景観が著しく破壊されてしまいます。また、「有川中将以下将兵自決の壕」は、土砂採取地から10mも離れていません。このような場所での土砂採取は、「戦跡保護」の趣旨にも逸脱します。
また、「熊野鉱山」の隣接道路(農道・里道)には、一帯の灌漑施設である米須地下ダムの止水壁が設置されており、土砂採取による影響も危惧されています。
以下、南部地域での土砂採取、特に熊野鉱山の開発問題について下記のとおり要請します。
記
1.熊野鉱山一帯は、沖縄戦跡国定公園として、自然公園法の「普通地域」に指定されており、開発行為のためには知事への届出が必要である。糸満市は同法に基づく業者からの届出書を県に送付した際、次のような意見書を添付した。
①土砂採掘前の遺骨収集を求めること
②自然公園法に基づく風景の保護への配慮を求めること
③採掘後は埋め戻しや緑化など、現状に限りなく近づける復旧を求めること
沖縄県として、この糸満市の意見にどう対処するのか、県としての見解を説明されたい。
2. 報道によれば、「熊野鉱山」の開発業者が遺骨収集作業の実施に向けて、県戦没者遺骨収集情報センターなどと調整を進めているという。菅首相も国会の代表質問に対して、「採掘業者においてご遺骨に配慮した上で土砂の採取が行われる」と答弁しているが(2021.1.22 参議院本会議)、開発業者が遺骨を収集するのは実際には難しい。
この一帯の遺骨収集をどのように行うつもりか、説明されたい。
3.自然公園法第33条2項は、「知事は国定公園について、当該公園の風景を保護するために必要があると認めるときは、---その風景を保護するために必要な限度において、当該行為を禁止し、若しくは制限し、又は必要な措置を執るべき旨を命ずることができる」と定めている。
沖縄戦跡国定公園としての景観を守るためにも、同法に基づき、「熊野鉱山」の開発行為を禁止すべきではないか。
4.「熊野鉱山」では、自然公園法、森林法の手続きを行わないまま、違法な開発行為が始まった。糸満市・八重瀬町の他の鉱山についても、自然公園法、森林法の手続きが法令どおり行われているかどうか疑問の声が出ている。他の鉱山には、こうした法令上の問題がないかどうか確認しているか。
5.糸満市・八重瀬町の鉱山では、道路や畑のすぐ間際まで、切り立った崖で採掘が行われているところが多い。ほとんどが、深い採掘跡の埋め戻しもされておらず、産業廃棄物の不法投棄が行われたこともある。自然公園法、森林法を所管する県として、こうした鉱山の現状をどのように認識しているのか。
6.「熊野鉱山」の開発が始まれば、近くの「魂魄の塔」、「平和創造の森公園」、「有川中将以下将兵自決の壕」等への影響が危惧される。戦跡国定公園の趣旨からも、「熊野鉱山」の開発は認められないのではないか。
7.知事として、「熊野鉱山」を「ガマフヤー」の案内で視察し、現地の状況を確認されたい。
以上