今日の朝日新聞朝刊8面13版に「『上場後も税軽減を』 JR九州、継続を要望へ」という記事が掲載されています。デジタル版には、今日の5時13分付で「JR九州、上場後も税軽減を要望へ 経営安定のため」(http://digital.asahi.com/articles/ASH36512VH36TIPE00R.html)として掲載されており、こちらのほうが詳しいものとなっています。
まずはこの記事の内容を紹介しますと、JR九州が株式上場後も固定資産税・都市計画税の軽減措置の継続を求めている、というものです。このブログでも2015年1月18日20時7分35秒付の「JR九州が株式上場に向けて駅の無人化を進める」において記したように、JR九州の本業である鉄道事業では一年あたりで150億円ほどの赤字が続いており、解消の見込みが全く立たないのです。何せ、2015年2月20日13時20分55秒付の「2016年度に株式上場予定のJR九州 しかし在来線で黒字は篠栗線だけ」で記したように、黒字を計上する在来線は篠栗線のみです。
JR各社については、固定資産税および都市計画税について軽減措置および非課税措置がとられています。一般的に地方税法第348条第1項第2号の5ないし第2号の8が鉄道事業法および軌道法の適用を受ける施設について固定資産税の非課税措置を定めていますが、いずれも鉄道会社が保有する施設に着目する措置であり(租税法学などでは物的非課税と言います)、特定の会社に着目するものではありません(人的非課税ではないということです)。
国土交通省のサイトに「鉄道関係税制特例概要(平成26年4月1日現在)」というページがあるので、参照していただきたいのですが、同省が「JR三島・貨物支援税制」と称するものがあり、これらは面倒なことに、地方税法の本則ではなく、附則に定められています。地方税制の面倒なところがここにもある訳ですが、固定資産税および都市計画税については「日本国有鉄道の改革に伴う固定資産税等の課税標準の特例」という見出しの下に、附則第15条の2および同第15条の3に規定されています。参考までに紹介いたしましょう。
第15条の2第1項「次に掲げる固定資産のうち昭和六十二年三月三十一日において地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律(昭和六十一年法律第九十四号。以下この項及び次条において「国鉄関連改正法」という。)第二条の規定による改正前の国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律(昭和三十一年法律第八十二号。以下この項において「旧交納付金法」という。)附則第十七項の規定(国鉄関連改正法附則第十三条第二項の規定によりなお効力を有することとされる場合を含む。以下この項において同じ。)の適用があつた償却資産(これに類する償却資産として政令で定めるものを含む。)に対して課する固定資産税の課税標準は、第三百四十九条の二、第三百四十九条の三第二項、第十三項若しくは第十五項の規定又は前条第十四項の規定にかかわらず、旧交納付金法附則第十七項の規定中「第四条第五項の額」とあるのは、「第三条第二項の価格」と読み替えた場合における同項の規定による算定方法に準じ、総務省令で定めるところにより算定した額とする。
一 旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律第一条第一項若しくは第二項に規定する旅客会社若しくは貨物会社又は旅客会社法改正法附則第二条第一項に規定する新会社が所有する日本国有鉄道改革法(昭和六十一年法律第八十七号)第二十二条の規定により日本国有鉄道から承継した固定資産(新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律(平成三年法律第四十五号)第二条に規定する旅客鉄道株式会社が同条の規定により同法第五条第一項の規定による解散前の新幹線鉄道保有機構から譲り受けた固定資産を含む。)で鉄道事業の用に供されるもの」
二 独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が所有し、かつ、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律第一条第一項若しくは第二項に規定する旅客会社若しくは貨物会社又は旅客会社法改正法附則第二条第一項に規定する新会社に有償で貸し付けた鉄道施設の用に供する固定資産のうち、昭和六十二年三月三十一日において日本国有鉄道に有償で貸し付けていたもの」
第15条の2第2項:「北海道旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社又は九州旅客鉄道株式会社(次条において「北海道旅客会社等」という。)が所有し、又は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構法第十二条第一項第三号及び第六号の規定に基づき借り受け、若しくは独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法第十二条第二項第二号の規定に基づき利用し、若しくは鉄道施設の貸付けを行う法人で政令で定めるものから借り受ける固定資産のうち、直接その本来の事業の用に供する固定資産で政令で定めるものに対して課する固定資産税又は都市計画税の課税標準は、第三百四十九条、第三百四十九条の二又は第七百二条第一項の規定にかかわらず、平成元年度から平成二十八年度までの各年度分の固定資産税又は都市計画税に限り、当該固定資産に係る固定資産税又は都市計画税の課税標準となるべき価格の二分の一の額(第三百四十九条の三第二項、第十三項から第十五項まで若しくは第二十七項、前条第十四項若しくは第三十三項又は前項の規定の適用を受ける固定資産にあつては、これらの規定により課税標準とされる額の二分の一の額)とする。」
〔注:第1項は「JR三島・貨物支援税制」の規定ではありません。第2項のみが該当します。〕
第15条の3:「北海道旅客会社等又は日本貨物鉄道株式会社が所有する日本国有鉄道改革法第二十二条の規定により日本国有鉄道から承継した固定資産で政令で定めるもの(昭和六十二年三月三十一日において国鉄関連改正法第一条の規定による改正前の地方税法第三百四十八条第二項第二号又は第二十七号の規定の適用があつた固定資産に限る。)に対して課する固定資産税又は都市計画税の課税標準は、第三百四十九条、第三百四十九条の二又は第七百二条第一項の規定にかかわらず、平成十四年度から平成二十八年度までの各年度分の固定資産税又は都市計画税に限り、当該固定資産に係る固定資産税又は都市計画税の課税標準となるべき価格の五分の三の額(前条第一項又は第二項の規定の適用を受ける固定資産にあつては、これらの規定により課税標準とされる額の五分の三の額)とする。」
JR各社は地方税法附則第15条の2第1項により、固定資産税・都市計画税の軽減措置を受け、JR九州、JR四国およびJR北海道は第15条の2第2項および第15条の3により、さらなる軽減措置を受けている訳です。現在、JR九州については、一年あたりで約60億円の軽減がなされています。このうちの約50億円が「JR三島・貨物支援税制」による軽減です。一方、JR九州の純利益(租税負担を差し引いた後の利益)は2014年3月期で115億円ほどです。
「JR三島・貨物支援税制」がなければ、JR九州の純利益はさらに低額となりますし(上記朝日新聞記事にも「税軽減がなければ、利益率は大きく低下する」と書かれています)、本業の赤字額はさらに増えることとなります。しかし、他の事業によるとはいえ、JR九州は2004年度以降に営業黒字を計上しています。株式上場後も「JR三島・貨物支援税制」の適用を受けるということになれば、沿線の各地方公共団体から反発を受けることとなるでしょう。実際に、総務省は適用の延長に反対の立場を示しています。国土交通省は延長も「経営安定のため、やむを得ない」という立場です。また、西鉄(西日本鉄道)も、適用の延長に反発しているとのことです。当然でしょう。
JR九州の株式上場に際して、国から同社に渡された3877億円もの経営安定基金を使い切ることが認められています。国に返す必要がない訳です。しかし、基金を使い切ることにも問題があります。それは、上記朝日新聞記事から引用すれば「この基金を使い、国の関連団体から過去10年で1千億円程度の高い運用益を得て」いるからです。
今後、何らかの調整が行われた後に、平成28年度税制改正大綱に盛り込まれる可能性がありますが、JR九州が株式を上場するだけの経営基盤を有すると評価しうるのか、疑問も残るところでしょう。
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ところで、2月27日、現在開かれている第189回国会に、内閣提出法律案第25号として「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律案」が衆議院に提出されました。まだ、衆議院のサイトには、いつ、衆議院のどの委員会に付託されるかが示されておらず(国土交通委員会でしょう)、まだ委員会での審査も始まっていないものと思われます。他方、国土交通省のサイトには「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律案について」を見れば、法律案、提案理由、概要などが示されておりますので、内容を知ることはできます。
国土交通省は、この法律案について、次のように説明しています(上記のページから引用)。
「1.背景
JR各社については、累次の閣議決定により「経営基盤の確立等条件が整い次第、できる限り早期に完全民営化する」こととされている。九州旅客鉄道株式会社については、経営の効率化や多角化を進め、近年では安定的に経常黒字を計上し、他の鉄道会社と比べても遜色ない経営状況にある。
このような状況から、同社の経営基盤は確立したと言える状況にあり、早期に完全民営化に向けた手続を進める必要がある。また、完全民営化後も、九州の基幹的輸送機関として、必要な鉄道ネットワークを維持するための措置を講じる必要がある。
2.概要
(1)九州旅客鉄道株式会社を、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の適用対象から除外する。
(2)国土交通大臣は、路線維持や利用者利便の確保等について、九州旅客鉄道株式会社が完全民営化した後も事業運営上踏まえるべき指針を策定し、必要な場合には勧告、命令等を行うことができることとする。
(3)九州旅客鉄道株式会社の経営安定基金については、完全民営化後も同基金が果たしている路線維持等の機能を実質的に確保するため、その全額を取り崩し、事業の運営に必要な費用に充てることとする。」