世界一周タビスト、かじえいせいの『旅が人生の大切なことを教えてくれた』 

世界一周、2度の離婚、事業の失敗、大地震を乗り越え、コロナ禍でもしぶとく生き抜く『老春時代』の処世術

日本の現状の側面

2011年06月12日 | 健康
母が搬送された病院から電話がかかってきた。




電話口の看護師は


「先生がすぐに病院へ来てくださいと言っています」

と告げる。



心臓が高鳴った。



危篤状態なのか。




「母の状態は?」



慌てて聞くボクの質問に


「ですから、先生がすぐこちらへ来るようにとおっしゃってます」


と答えにならない返事を電話口の向こうで繰り返す。




「先生に代わってください」



埒が明かない問答にしびれを切らした。




医者はすぐに電話に出た。



看護師の横にいたようだ。





「書類にサインが必要なのですぐに来てもらえますか?」



事務的な口調。




「母の容体は?」



一番に知りたいことはそこだ。




「今点滴をさせてます」


「で・・・?」



「こちらでは手術ができません。


手術の出来る病院へ搬送するかどうか書類にサインが必要なのです」




「すぐといわれても


一時間以上はかかるので、手術の出来る病院へすぐに搬送してください」




「それが、電話ではできないのです。


書類にサインをしていただかないと送れないのです」




「何を言っているのですか。


人の命がかかっているのですヨ。



手遅れになったらどうするのですか」





「いえ、まだすぐという訳ではないので」


「は?」



「手術が必要になったときに


一筆書いといていただかないと



勝手に患者さんを動かせないもんですから困るんです」





困るのはこっちだ。




「ですから今私がイイと言っているじゃないですか。


すぐに手術の出来る病院へ搬送してください」




「いえ、今送ってもすぐに返されるだけです」


「は?」




意味がよく分からない。




「今のところこちらで対処してますので大丈夫です。


もし手術が必要になった時の話です」





「母は大丈夫なのですね」



そう念を押して


急ぎ病院へ向かった。









病院へ着くと


受付で母の病室を聞いた。




「患者さんのご家族の方ですね。


先生のお話がありますので、診察室へどうぞ」




「その前に母に会わせてください」



受付嬢は有無を言わさずボクを診察室へ案内する。




そこで待っていた医者は


ボクの顔を見もせずパソコンのディスプレイを見せようとする。




「先生、先に母に会いたいのですが」



毅然としてボクは言った。




その時その医者は初めてボクの顔を見た。




命ぜられた看護師は


仕方なしにヤット母の病室に案内してくれた。






母は


顔色は悪かったが


点滴を受けながら静かに眠っていた。




少し、安心した。





しばらく母のベッドの横で佇んでいると


「先生がお待ちです」


と、急かされた。






万事が


人の気持ちよりも



事務手続きが優先される世の中。






本質的に


震災への対応の遅れと同質にあるのではないか。





これが日本の現状なのか。





弱者へ


権威の権限が重くのしかかる。







だが

世を嘆くより



今は


ただただ


母が元気になってくれることを祈るのみ、だ。