OTELPMACHI https://otekomachi.yomiuri.co.jp/workstyle/20211228-OKT8T324919/
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティーと、多彩な才能で活躍するジェーン・スーさんが、最新エッセー集「ひとまず上出来」(文芸春秋、税込み1595円)を出版しました。コロナ下でひっくり返った価値観から、新たな“ジャストサイズ”の見つけ方まで、鋭い視点で捉えています。最近の生活や心境の変化などについて聞きました。
――コロナ下で執筆されたエッセーですが、大きな生活の変化があったそうですね。
パートナーとお別れしたんです。8年くらい付き合っていたので、めちゃくちゃ悩んで、めちゃくちゃ泣きましたよ。2020年末には東京タワーが見える1LDKに引っ越しました。自宅だけではなく、事務所の引っ越しも重なったから大変でした。ビルの取り壊しが決まったため、退去しなくてはならなくなって。48歳ですからね、さすがにどっと疲れました。
コロナによる生活の変化自体は、それほど苦痛ではありませんでした。人の多いところに行くことが実はそんなに好きじゃなかったから、むしろ楽になったくらいです。心身ともに調子が良くて、これくらいのんびりしていたほうが幸せなのかもしれないという気づきがあったのは、大きな収穫でした。
コロナ感染拡大の初期、みんなが外出を控えている時期があったじゃないですか。運動不足解消のため、誰もいない銀座や新宿を友人と一緒にぐるぐる歩き回ったのがめちゃくちゃ楽しかった。電動自転車でちょっと遠出して、いつもと違うスーパーで買い物したことも。自分なりの楽しみを見つけることができました。
自分を不幸な場所に置き続けない
――ステイホームで、家を心地よく整えたいという人が増えています。新居の住み心地は?
ワークの充実こそ人生の充実につながると信じて生きてきたので、住まいを生活の場としてめでてこなかったんです。それで、一人暮らしとなると家の中に落ち着く居場所がなくなってしまったなあと。
誰かと一緒に暮らすのが、私にとっては居心地のいい生活を得る一番の方法だとわかってはいるんです。また次に行きますよ。もう疲れた、もう恋愛なんていいとしょんぼりしていたのは3か月程度。今はやる気がみなぎっています(笑)。
50近くなって、自分を不幸な場所に置き続けないことは、人間の唯一の義務なんじゃないかと思うようになりました。あんまり幸せじゃないなと気づいたら、動こうよと。
かくいう私も、自分の人生が上出来と思えるようになったのは、ここ数年。偉業を達成したから、欲しいものを手に入れたからということではありません。どちらかというと、こんなもんでしょうと腹落ちがしたという感じです。20代、30代は「何者でもない自分」に焦りを感じたり、人と比べて落ち込んだりしがちだけれど、それが通常運転なんじゃないでしょうか。年齢とともに腹斜筋や内転筋が衰えるように、物事に執着する“執着筋”もどんどん弱る。自分のポテンシャルに執着できなくなることは、ある意味、幸せなことだと思います。人と比べてもしょうがないってことがわかって、楽になりますよ。
好きなことより得意なことを
――今後、新たに挑戦したいことはありますか?
インタビューでそう聞かれるといつも、目を泳がせながら「ないです」と答えます(笑)。実際、確たる目標もなく、ただ目の前のことをするうちに今に至りましたから。
最初に就職したレコード会社では、本当にやりたかったことができずに辞めてしまいました。同業他社に転職して猛烈に働いて、あーつかれたと3年くらいで退社したのかな。しばらく自堕落な生活を続けていたんですが、コラムの執筆や作詞、ラジオ出演など、周囲の人が声をかけてくれたことをやってみたら、うまく回るようになった。
ラジオは好きだからというより、得意だから続けられているんだと思います。いま、自分には特技なんて何もないと思っている人でも、必ず人より得意なことがある。信頼できる人が評価してくれることを私は信じました。
仕事の上で、自分にうそをつかないことは大切にしています。そして、読者やリスナーを思考停止に陥らせるような決めつけはしないこと。それさえ自分に約束できれば、あとは楽しそうにしていればいいと思っています。大人が楽しそうでないとね。
メンタルブレブレも楽しんで
――仕事が順調な反面、体力の衰えを感じているそうですね。
がむしゃらに仕事に励んでいる若い皆さんにぜひお伝えしたいのが、40代になったらもっと忙しくなるよってことです。私の若い頃にそんなことを教えてくれる人がいなかったので、本にも書きました。仕事があるのはありがたいが、体のほうが悲鳴を上げ始めるわけで。
それに、鋼のように鍛え上げたはずのメンタルも、10代の頃みたいにブレブレ。「メンブレ」です。私の言葉が友達を傷つけたかもしれないとうじうじ悩んだり、相手に嫌われているんじゃないかと悲しくなったり。情緒不安定は、いわゆる更年期症状のひとつのようです。
この第二の思春期のような状態が、自分でもちょっと面白くて、楽しんでいます。友達に「もう全部ヤダ、メンブレ(爆)」とかLINEして、お互いゲラゲラ笑って。中学生に戻ったみたいですね。
そろそろワーク・ライフ・バランスを整えようと模索中。ワクチン接種後からしばらく休んでいた筋トレを再開する予定です。そして2022年は少し仕事をセーブしようと思っていたんですが、酉とりの市でピンときて昨年より大きな熊手を買ってしまったので、どうなることやら。
(聞き手・読売新聞メディア局 深井恵)
Profile プロフィル
ジェーン・スー
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティー
1973年、東京都生まれ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のMCを務める。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」で講談社エッセイ賞を受賞。著書に「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」「揉まれて、ゆるんで、癒されて」「これでもいいのだ」「女のお悩み動物園」など。また高橋芳朗との共著「新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない 愛と教養のラブコメ映画講座」がある。
感想;
「自分を不幸な場所に置き続けない」
不幸なところに置き続けると、心身にダメージを受け続けるのでしょう。
そうすると、何かをやるエネルギーも出てこないし、やる気も起きて来ないのでしょう。
課題は、どうすれば幸せな場所に自分を置くことができるかでしょう。
その前に、どうすれば、どんな時が自分が幸せに感じるかを確認して、一つでもそれを実践していくことなのかもしれません。
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティーと、多彩な才能で活躍するジェーン・スーさんが、最新エッセー集「ひとまず上出来」(文芸春秋、税込み1595円)を出版しました。コロナ下でひっくり返った価値観から、新たな“ジャストサイズ”の見つけ方まで、鋭い視点で捉えています。最近の生活や心境の変化などについて聞きました。
――コロナ下で執筆されたエッセーですが、大きな生活の変化があったそうですね。
パートナーとお別れしたんです。8年くらい付き合っていたので、めちゃくちゃ悩んで、めちゃくちゃ泣きましたよ。2020年末には東京タワーが見える1LDKに引っ越しました。自宅だけではなく、事務所の引っ越しも重なったから大変でした。ビルの取り壊しが決まったため、退去しなくてはならなくなって。48歳ですからね、さすがにどっと疲れました。
コロナによる生活の変化自体は、それほど苦痛ではありませんでした。人の多いところに行くことが実はそんなに好きじゃなかったから、むしろ楽になったくらいです。心身ともに調子が良くて、これくらいのんびりしていたほうが幸せなのかもしれないという気づきがあったのは、大きな収穫でした。
コロナ感染拡大の初期、みんなが外出を控えている時期があったじゃないですか。運動不足解消のため、誰もいない銀座や新宿を友人と一緒にぐるぐる歩き回ったのがめちゃくちゃ楽しかった。電動自転車でちょっと遠出して、いつもと違うスーパーで買い物したことも。自分なりの楽しみを見つけることができました。
自分を不幸な場所に置き続けない
――ステイホームで、家を心地よく整えたいという人が増えています。新居の住み心地は?
ワークの充実こそ人生の充実につながると信じて生きてきたので、住まいを生活の場としてめでてこなかったんです。それで、一人暮らしとなると家の中に落ち着く居場所がなくなってしまったなあと。
誰かと一緒に暮らすのが、私にとっては居心地のいい生活を得る一番の方法だとわかってはいるんです。また次に行きますよ。もう疲れた、もう恋愛なんていいとしょんぼりしていたのは3か月程度。今はやる気がみなぎっています(笑)。
50近くなって、自分を不幸な場所に置き続けないことは、人間の唯一の義務なんじゃないかと思うようになりました。あんまり幸せじゃないなと気づいたら、動こうよと。
かくいう私も、自分の人生が上出来と思えるようになったのは、ここ数年。偉業を達成したから、欲しいものを手に入れたからということではありません。どちらかというと、こんなもんでしょうと腹落ちがしたという感じです。20代、30代は「何者でもない自分」に焦りを感じたり、人と比べて落ち込んだりしがちだけれど、それが通常運転なんじゃないでしょうか。年齢とともに腹斜筋や内転筋が衰えるように、物事に執着する“執着筋”もどんどん弱る。自分のポテンシャルに執着できなくなることは、ある意味、幸せなことだと思います。人と比べてもしょうがないってことがわかって、楽になりますよ。
好きなことより得意なことを
――今後、新たに挑戦したいことはありますか?
インタビューでそう聞かれるといつも、目を泳がせながら「ないです」と答えます(笑)。実際、確たる目標もなく、ただ目の前のことをするうちに今に至りましたから。
最初に就職したレコード会社では、本当にやりたかったことができずに辞めてしまいました。同業他社に転職して猛烈に働いて、あーつかれたと3年くらいで退社したのかな。しばらく自堕落な生活を続けていたんですが、コラムの執筆や作詞、ラジオ出演など、周囲の人が声をかけてくれたことをやってみたら、うまく回るようになった。
ラジオは好きだからというより、得意だから続けられているんだと思います。いま、自分には特技なんて何もないと思っている人でも、必ず人より得意なことがある。信頼できる人が評価してくれることを私は信じました。
仕事の上で、自分にうそをつかないことは大切にしています。そして、読者やリスナーを思考停止に陥らせるような決めつけはしないこと。それさえ自分に約束できれば、あとは楽しそうにしていればいいと思っています。大人が楽しそうでないとね。
メンタルブレブレも楽しんで
――仕事が順調な反面、体力の衰えを感じているそうですね。
がむしゃらに仕事に励んでいる若い皆さんにぜひお伝えしたいのが、40代になったらもっと忙しくなるよってことです。私の若い頃にそんなことを教えてくれる人がいなかったので、本にも書きました。仕事があるのはありがたいが、体のほうが悲鳴を上げ始めるわけで。
それに、鋼のように鍛え上げたはずのメンタルも、10代の頃みたいにブレブレ。「メンブレ」です。私の言葉が友達を傷つけたかもしれないとうじうじ悩んだり、相手に嫌われているんじゃないかと悲しくなったり。情緒不安定は、いわゆる更年期症状のひとつのようです。
この第二の思春期のような状態が、自分でもちょっと面白くて、楽しんでいます。友達に「もう全部ヤダ、メンブレ(爆)」とかLINEして、お互いゲラゲラ笑って。中学生に戻ったみたいですね。
そろそろワーク・ライフ・バランスを整えようと模索中。ワクチン接種後からしばらく休んでいた筋トレを再開する予定です。そして2022年は少し仕事をセーブしようと思っていたんですが、酉とりの市でピンときて昨年より大きな熊手を買ってしまったので、どうなることやら。
(聞き手・読売新聞メディア局 深井恵)
Profile プロフィル
ジェーン・スー
作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティー
1973年、東京都生まれ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」のMCを務める。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」で講談社エッセイ賞を受賞。著書に「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」「揉まれて、ゆるんで、癒されて」「これでもいいのだ」「女のお悩み動物園」など。また高橋芳朗との共著「新しい出会いなんて期待できないんだから、誰かの恋観てリハビリするしかない 愛と教養のラブコメ映画講座」がある。
感想;
「自分を不幸な場所に置き続けない」
不幸なところに置き続けると、心身にダメージを受け続けるのでしょう。
そうすると、何かをやるエネルギーも出てこないし、やる気も起きて来ないのでしょう。
課題は、どうすれば幸せな場所に自分を置くことができるかでしょう。
その前に、どうすれば、どんな時が自分が幸せに感じるかを確認して、一つでもそれを実践していくことなのかもしれません。