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専門学校進学か就職するはずの子が、たった半年の勉強で難関の国立大へ
PRESIDENT Online 2022/05/07 11:00
福岡県那珂川市(人口約5万人)にある私立福岡女子商業高校が今、教育界で大きな話題になっている。2年前に赴任した国語科教員によって前年度は0人だった国公立大学合格者が一気に20人になったのだ。なぜ、そんなミラクルを起こせたのか。その立役者の教員で、30歳の若さで校長に就任した柴山翔太さん(現在31歳)が『プレジデントFamily』編集部の取材に答えた――(前編/全2回)。
※本稿は、『プレジデントFamily2022年春号』の一部を再編集したものです。
令和2年度進路実績画像=福岡女子商業高等学校ホームページより 全ての画像を見る(4枚)
スゴイ合格実績はたった半年の講座にあり
――福岡女子商業に赴任したのは、いつ頃ですか?
2020年4月です。女子の商業科がメインの学校で、しかも私立ということで、定員割れが続いている状況でした。例年の卒業生の進学先は、専門学校・短大が約4割、就職が約4割。四大に進学する子はほんの一握りで、国公立の四年制大学に進学する子はいませんでした。私は大学進学率を上げるというミッションで、この学校に来ました(前任校は兵庫県の私立神戸星城高校)。
――たった1年で、国公立大学合格者20人。ミッションをどのようにクリアしたのですか?
実は、赴任直後からコロナ禍で6月まで休校期間が続きました。だから5月にZOOMで進路面談を始め、6月の初旬に高3の120全員に大学進学のための説明会を開かせてもらったんです。その説明会で、「君たちの将来のやりたいことっていうのは自分のできそうなことのなかから選んでない?」という話や、「今、将来の夢がないと焦っているかもしれないけど、高校時代で見つからなくても大丈夫。大学は自分のやりたいことを見つけに行く場所」というような話をしました。
それと、大卒と高卒の生涯賃金の違いの話だとか、就職活動のときに一部で学歴フィルターがある話など、現実的なことも話しました。すべての人が、生涯賃金や学歴フィルターで苦労するケースに当てはまるわけではないので、私の話が気になったら自分で調べてほしいとも伝えました。
――生徒からはどのような反応がありましたか?
その説明会の最後に「四年制大学の進学に1ミリでも興味を持ったら、スタディールームに来てほしい」と言ったら、6月の休校明けに30人ぐらいの生徒がスタディールームに来たんですよ。
長崎大12人ほか計20人が国公立大に合格した!
――高3の6月からの受験勉強。本番まで1年もありませんね。
狙いは、国公立大学の学校推薦選抜の枠で、その入試は11月が本番。7月には受験する大学を決めなければいけないので、焦りましたね。30人は学年の4分の1。(受験対策の)講座前から「国公立大学に行きたい」と言っていた子は1人だけでした。そこから入試の肝となる小論文の指導を始めました。説明会では、大学進学の準備は、今から始めないと間に合わないから、やってみて途中で抜けるのは構わないっていう話はしました。
柴山翔太さん私立福岡女子商業高校校長の柴山翔太さん(31歳)(写真=本人提供)
――そして2020年度は、長崎大12人、佐賀大1人、大分大1人、静岡大3人、山口大1人、和歌山大1人、北九州市立大1人の計20人が国公立大に合格した。
はい、2021年度は14人が国公立大学に合格しました[長崎大学6人、大分大学1人、北九州市立大学3人、山口大学2人、三重短期大学1人、名桜(沖縄県)大学1人]。その学年は生徒数が90人ぐらいしかいなかったので割合としては十分多いと思います。国公立大学以外に私立大学に進学した子もいます。おかげさまで本校に関心を持ってくれる高校生が増え、オープンキャンパスは大盛況です。
――それまで定員割れしていたので、まさに快挙ですね。
合格した生徒たちの多くは国公立大学の推薦選抜の中でも、商業高校や工業高校などの専門科の生徒のための枠で受かっています。長崎大学をはじめ、もともと商業高等学校がルーツになっている国公立大学には商業科の推薦枠があります。ただ、受かった子たちは、そうした専門高校推薦枠ではなく、普通高校推薦でも十分合格できる力が付いていたと思います。
――短期間でかなり力をつけたんですね。
実は、受験が終わった後も、合格した子たちは学び続けているんですよね。(入試の小論文の課題に出てくる)社会問題に関する知識は継続して吸収しないとわからなくなってしまうもの。受験勉強を通じて、社会問題について深く考えられている状態を「手放したくない」って思うんでしょうね。合格したあとも、新聞を読むのが習慣化した生徒がいたりして、社会に関心を持つということを、自分の強みとしてくれる子たちが増えれば、いいなと思っています。
――高校に入った時点では、国公立大学に進学しようと思っていた子は少ないと思うんですが……。柴山先生の指導を受けて大きく変化があった子はいますか?
福岡県の高校受験は県立高校志向が強く、私立は滑り止めというケースも多いです。うちの高校の生徒は、高校に入った時点では大学進学は考えていなかった子が多いですね。
国立大学に受かった子の中に、高2のときは舌にピアスをしている子がいました。うちの学校にはコースが複数あるのですが(特進コース、商業実践コース・情報実践コース、ビジネスビューティーコース)、その子は最も入学偏差値が低いコースの子だったので、受験勉強を始めたときはやり抜くことができるかなと思っていたんです。ところが一番ストイックに勉強して、最後は国公立大の中でも難易度の高い学校の合格を勝ち取った。
――急に勉強スイッチが入ったんでしょうか。
その子が受験勉強をはじめた理由はジャニーズの追っかけをしたいというところからだったんですよ。東京や大阪に近い大学に進学したいと。けれども、勉強しているうちにやりたいことが出てきて、最終的には、貧困問題を解消したいという話をしていましたね。あとは女性のリーダー少ないから、リーダーになってみたいって言ってます。
中学の先生に話したら「お前が大学に受かったんか!」と驚かれたという子もいます。高校生はスイッチ一つで、変わるなと思いますね。
受験勉強をしている生徒の中には、自信が持てずに「やっぱり、専門学校に行こうと思います」と言ってくる子もいます。なんで受験を辞めようと思っているのか理由を聞いたり、行きたいのは大学と専門学校どっちなの? と聞いたりしていくと、「自信がないから、大学受験したくない」と言うんですね。そういう場合は、「専門学校は大学の推薦の受験が終わった後でもチャレンジできるよ」という話をしたり、同じようにモチベーションが下がったけれど受験をした経験がある大学生の先輩とつないだりします。ほっといたらもう勝手に受験を諦めてしまう子もいるので、本当はどうしたいのかを聞くようにしています。
――東大を目指す漫画『ドラゴン桜』の桜木先生のようですね。意識されていますか?
あんまり考えたことないですけど、共感する部分は多いです。あの作品のように実際の指導の場面でも、生徒が落ち込んだりする時期や辞めたいと言うことはよくあるので、その場面での声かけとか参考になります。
また、受験したとしても受かるかどうかわからないねというスタンスだと、生徒は受験勉強を頑張りにくい。受験は「絶対合格する」とは言い切れない部分はありますが、「君なら合格できるよ」と言い切って背中を押すことが教師の役割かなと思います。
――その他、苦労した点や工夫した点はありますか?
保護者の中には、大学に進学した経験がない方もいて、お子さんが大学に進学する必要があるのかと思う人もいるんですね。誰でも自分が知らない世界は不安なので、大学に行ってない保護者の不安もわかります。だから、保護者説明会では今の時代の現状を伝えることは意識しています。
「(最近の)大学進学率のパーセンテージ見たことありますか?」といった話や、「短大進学っていう話をする方もいますけれど、今の時代、短大に進学するのは、全国でも5%なんですよ」といった話をします。
人は、20代頃に過ごした時代の価値観を意識して、その後の人生を過ごしがちだという話を踏まえ、保護者の皆さんには「短大や大卒じゃなくても不自由なく過ごせていた時代とは変わっていますよ」と。今の時代を意識してお子さんの進学について、学校とお子さんと保護者とでチームになって考えましょうと伝えます。「今の時代の進学情報を伝えた上で、お子さんに決めさせませんか? 勝手に決めちゃうとあとから恨まれますよ」とお話ししますね(以下、後編「『舌にピアス』『ジャニーズ好き』の女子を難関の国公立大に6カ月で合格させた31歳・国語科教員のすごい技」へ続く)。
「舌にピアス」「ジャニーズ好き」の女子を難関の国公立大に6カ月で合格させた31歳・国語科教員のすごい技
もっとも低い偏差値の学科の生徒が急に「書く力」をつけられたワケ
https://president.jp/articles/-/57253
それまで定員割れが続いていた私立福岡女子商業高校(福岡県那珂川市)は2020年度に国公立大学の合格者を一気に20人も出した(前年度は0人)。2年前に国語科教員として赴任し、現在は校長も務める柴山翔太さん(31歳)に、どのように生徒の学力を底上げしたのか聞いた――(後編/全2回)。
柴山翔太さん写真=本人提供私立福岡女子商業高校校長の柴山翔太さん(31歳)全ての画像を見る(7枚)
2020年春に福岡女子商業高校に赴任する前に、神戸の私立神戸星城高校に勤務していました。そこは推薦選抜を活用して国公立大学に多くの子がチャレンジしている学校で、偏差値は50に満たないぐらいの学校にもかかわらず、毎年70人程度合格者が出ていました。その数字はまさに衝撃でした。
どんなことをすればそんなに多くの国公立大学の合格者を出せるのか。神戸星城の存在を知ったのはその前に在籍していた北海道の高校での教員時代。当時、特別に神戸星城へ研修に行かせてもらったんです。そこで指導のメインになっていたのは小論文でした。私自身、国語の教員ということもあり、小論文指導をすることもあったのですが、その研修で小論文指導のスキル、特に読解力をつけさせる指導法を学びました。
――実際に赴任した神戸星城での小論文指導は具体的にはどんな内容でしたか?
小論文指導は、希望者のみが受ける特別講座で期間としては8カ月ぐらいです。生徒たちを見ていると、その講座に参加していた子と、参加していない子には別の学校で学んだのではと思うくらい、学力の差が出ていると思ったんですね。
小論文というのは、現実に起きている日本や世界の問題に何らかの解決策を提示するものです。小論文指導を受けた子は、社会問題の知識や理解も圧倒的に深いと思いましたし、社会問題についても主体的に意見を持っている。会話をしていても、すごく感じましたね。
小論文を書くスキルをどのように授けたのか
――福岡女子商業高校でも同じやり方をしたんですか?
自分なりにアレンジはさせてもらっています。高3の春から始めて講座を週1回やって、特に力を入れるのは夏休み以降。3カ月間ぐらいが勝負です。夏休みは毎日指導しますね。週3日講座をやって、週2日は自由に小論文を書く時間にしています。
――例えば、どんなテーマで小論文を書くのでしょうか?
講座ではまずは生徒の身近な問題から取り上げます。たとえば「焼肉食べ放題って行ったことある? 食べ放題で食べていたら、途中で『もう肉がありません』って言われたとしたらどう思う?」という話から始めます。実際は「すいません、品切れです」という状況は聞いたことがない。そこで、生徒には「ということは、食材を余らせるくらいに仕入れることが前提になっているのかもしれないね」という話をしながら、フードロスや環境問題の話につなげてディスカッションしていきます。
――「フードロス」といったキーワードを学んでいくんですね。
小論文ノート写真=学校提供小論文ノート
このような「小論文ノート」を生徒それぞれが作っているんです。5cm以上の厚さのものを、1、2冊持っています。それで、自分が興味を持った言葉やわからない言葉を調べていくんですね。テーマは「フードロス」のほかにも、「裁判員制度」「男女格差」「ダイバーシティ」「貧困問題」など。小論文の入試で取り上げられそうな言葉の意味を調べて、問題点や解決策について自分の意見を書く。そんなノートを何カ月も必死に作っていたら、変わっていきます。
――ノートに学びを蓄積していくんですね。
受験した子たちが作った小論文ノートを、後輩のために高校に置いていってってお願いしたらみんな嫌だって言うんですよ。卒業アルバムのようにしんどかったときに見直したいとか、大学の授業でも役立ちそうだからって。
小論文ノート写真=学校提供小論文ノート
――分厚い小論文ノートをそれぞれが作るとはいえ、たった半年で小論文を書く力って身に付くのでしょうか?
半年あればある程度のところまで持っていくのは十分可能です。大人だとちょっと難しいかもしれないですけど、やっぱり高校生ってすごいんですよ。興味を持って学ぼうとしたら一気に伸びていきます。短期間だからこそできる、という面もありますね。
原稿用紙を見て、最初は「うわ~」とか生徒から嫌がられますけれど、書くことを続けていくとだんだん書くことに慣れていきます。
合言葉は「幼稚園児のように学び、発言しよう」
――(前編で)「舌にピアス」をしていたジャニーズ好きの女子生徒も国公立大学に合格したことをお聞きしましたが、最初は勉強アレルギーのような症状も出たのでしょうか。
まずは、間違ったものを書いたらどうしようとか、間違ったらどうしようという気持ちを取り除くことが一番大事かなと思いますね。うちの高校では「幼稚園児のように学ぼう」という話をします。授業中、誰も手を挙げない、自分の考えを言わないという状況では絶対に伸びない。みんなが、幼稚園児のように思ったことを発言し、活発的なディスカッションをしながら学んでいこうという意味ですね。小論文講座だけでなく、普通の授業でも行っています。
語句のマッピング写真=学校提供
――「幼稚園児のように学び、発言しよう」。いいですね。そうしたディスカッションを経て、生徒が書いた小論文の出来はいかがでしたか。
論文を書いたら、最初は書いたこと自体を褒めます。自分の視点が入っていたらOK。1回文章を持ってきてくれたら、「この1カ所だけ直してみたら」って言うくらいです。長期的には“考える習慣”を身に付けることが目的なので、良くないところは指摘せず、意見の中の面白いところを話すようにします。
ある程度、書くことに慣れてきたら、合格ラインまで文章の完成度を上げていかないといけないので、その後に「ここを変えよう」とか、「こういう要素が必要だよね」とか課題となる部分を指摘していきます。
小論文の受験勉強の中で、一番大事なのは自分の意見をアウトプットすることだと思います。だれかの考えを押し付けるのでは楽しさが出てこないので、続かない。アウトプットを続けていると、だんだん自分の意見を持つようになってくる。
あと、やっぱり集団の力の効果は大きいです。ある程度の人数で合格に向かって走り始めると面白くなってくる。一人でやるのはきついと思います。
小論文ノート写真=学校提供小論文ノート
――日本の大学入試が変わってきています。思考力・判断力・表現力が入試でも重視されるようになっていますが、書く力も重視されていると感じていますか?
大事になっていくと思います。知識とか、従来のペーパーテストだけで測る知識ではなく、欧米でやっているように、自分がどう思うといった考えを文章や口頭で発信することが日本の入試でも重要になってくるんではないかと思います。
こういった自分の考えを文章で表現するスキルは、大学に入ってからでも社会に出てからでも通用すると思うので、高校の段階で身に付けておくといいと思っています。
考える習慣って本当に難しいと思うんですけど、家庭でも親御さんたちに小中高のお子さんに「なんでそう思うのか?」を聞いてほしいなと思います。家で文章を書くのは難しいと思うのですが、まずは日常の会話の中で考える力が身に付けられたらいいなと思います。
感想;
・大学入学の高校推薦枠に目をつけたこと。
・小論文の指導を徹底して行ったこと。
それ以上に大きかったのは、大学に行きたい。
大学に行って、何かをしたいと、人生に大きな目的を持たせたことでしょう。
そして、自分でも可能性があると希望を持たせたことではないでしょうか。
自分の人生をどうしたいかを、しっかり考えたこと。
自分の可能性に見えないガラスの天井を取っ払ったこと。
人生に新たな希望と目的を持った子どもたちの未来が楽しみです。
専門学校進学か就職するはずの子が、たった半年の勉強で難関の国立大へ
PRESIDENT Online 2022/05/07 11:00
福岡県那珂川市(人口約5万人)にある私立福岡女子商業高校が今、教育界で大きな話題になっている。2年前に赴任した国語科教員によって前年度は0人だった国公立大学合格者が一気に20人になったのだ。なぜ、そんなミラクルを起こせたのか。その立役者の教員で、30歳の若さで校長に就任した柴山翔太さん(現在31歳)が『プレジデントFamily』編集部の取材に答えた――(前編/全2回)。
※本稿は、『プレジデントFamily2022年春号』の一部を再編集したものです。
令和2年度進路実績画像=福岡女子商業高等学校ホームページより 全ての画像を見る(4枚)
スゴイ合格実績はたった半年の講座にあり
――福岡女子商業に赴任したのは、いつ頃ですか?
2020年4月です。女子の商業科がメインの学校で、しかも私立ということで、定員割れが続いている状況でした。例年の卒業生の進学先は、専門学校・短大が約4割、就職が約4割。四大に進学する子はほんの一握りで、国公立の四年制大学に進学する子はいませんでした。私は大学進学率を上げるというミッションで、この学校に来ました(前任校は兵庫県の私立神戸星城高校)。
――たった1年で、国公立大学合格者20人。ミッションをどのようにクリアしたのですか?
実は、赴任直後からコロナ禍で6月まで休校期間が続きました。だから5月にZOOMで進路面談を始め、6月の初旬に高3の120全員に大学進学のための説明会を開かせてもらったんです。その説明会で、「君たちの将来のやりたいことっていうのは自分のできそうなことのなかから選んでない?」という話や、「今、将来の夢がないと焦っているかもしれないけど、高校時代で見つからなくても大丈夫。大学は自分のやりたいことを見つけに行く場所」というような話をしました。
それと、大卒と高卒の生涯賃金の違いの話だとか、就職活動のときに一部で学歴フィルターがある話など、現実的なことも話しました。すべての人が、生涯賃金や学歴フィルターで苦労するケースに当てはまるわけではないので、私の話が気になったら自分で調べてほしいとも伝えました。
――生徒からはどのような反応がありましたか?
その説明会の最後に「四年制大学の進学に1ミリでも興味を持ったら、スタディールームに来てほしい」と言ったら、6月の休校明けに30人ぐらいの生徒がスタディールームに来たんですよ。
長崎大12人ほか計20人が国公立大に合格した!
――高3の6月からの受験勉強。本番まで1年もありませんね。
狙いは、国公立大学の学校推薦選抜の枠で、その入試は11月が本番。7月には受験する大学を決めなければいけないので、焦りましたね。30人は学年の4分の1。(受験対策の)講座前から「国公立大学に行きたい」と言っていた子は1人だけでした。そこから入試の肝となる小論文の指導を始めました。説明会では、大学進学の準備は、今から始めないと間に合わないから、やってみて途中で抜けるのは構わないっていう話はしました。
柴山翔太さん私立福岡女子商業高校校長の柴山翔太さん(31歳)(写真=本人提供)
――そして2020年度は、長崎大12人、佐賀大1人、大分大1人、静岡大3人、山口大1人、和歌山大1人、北九州市立大1人の計20人が国公立大に合格した。
はい、2021年度は14人が国公立大学に合格しました[長崎大学6人、大分大学1人、北九州市立大学3人、山口大学2人、三重短期大学1人、名桜(沖縄県)大学1人]。その学年は生徒数が90人ぐらいしかいなかったので割合としては十分多いと思います。国公立大学以外に私立大学に進学した子もいます。おかげさまで本校に関心を持ってくれる高校生が増え、オープンキャンパスは大盛況です。
――それまで定員割れしていたので、まさに快挙ですね。
合格した生徒たちの多くは国公立大学の推薦選抜の中でも、商業高校や工業高校などの専門科の生徒のための枠で受かっています。長崎大学をはじめ、もともと商業高等学校がルーツになっている国公立大学には商業科の推薦枠があります。ただ、受かった子たちは、そうした専門高校推薦枠ではなく、普通高校推薦でも十分合格できる力が付いていたと思います。
――短期間でかなり力をつけたんですね。
実は、受験が終わった後も、合格した子たちは学び続けているんですよね。(入試の小論文の課題に出てくる)社会問題に関する知識は継続して吸収しないとわからなくなってしまうもの。受験勉強を通じて、社会問題について深く考えられている状態を「手放したくない」って思うんでしょうね。合格したあとも、新聞を読むのが習慣化した生徒がいたりして、社会に関心を持つということを、自分の強みとしてくれる子たちが増えれば、いいなと思っています。
――高校に入った時点では、国公立大学に進学しようと思っていた子は少ないと思うんですが……。柴山先生の指導を受けて大きく変化があった子はいますか?
福岡県の高校受験は県立高校志向が強く、私立は滑り止めというケースも多いです。うちの高校の生徒は、高校に入った時点では大学進学は考えていなかった子が多いですね。
国立大学に受かった子の中に、高2のときは舌にピアスをしている子がいました。うちの学校にはコースが複数あるのですが(特進コース、商業実践コース・情報実践コース、ビジネスビューティーコース)、その子は最も入学偏差値が低いコースの子だったので、受験勉強を始めたときはやり抜くことができるかなと思っていたんです。ところが一番ストイックに勉強して、最後は国公立大の中でも難易度の高い学校の合格を勝ち取った。
――急に勉強スイッチが入ったんでしょうか。
その子が受験勉強をはじめた理由はジャニーズの追っかけをしたいというところからだったんですよ。東京や大阪に近い大学に進学したいと。けれども、勉強しているうちにやりたいことが出てきて、最終的には、貧困問題を解消したいという話をしていましたね。あとは女性のリーダー少ないから、リーダーになってみたいって言ってます。
中学の先生に話したら「お前が大学に受かったんか!」と驚かれたという子もいます。高校生はスイッチ一つで、変わるなと思いますね。
受験勉強をしている生徒の中には、自信が持てずに「やっぱり、専門学校に行こうと思います」と言ってくる子もいます。なんで受験を辞めようと思っているのか理由を聞いたり、行きたいのは大学と専門学校どっちなの? と聞いたりしていくと、「自信がないから、大学受験したくない」と言うんですね。そういう場合は、「専門学校は大学の推薦の受験が終わった後でもチャレンジできるよ」という話をしたり、同じようにモチベーションが下がったけれど受験をした経験がある大学生の先輩とつないだりします。ほっといたらもう勝手に受験を諦めてしまう子もいるので、本当はどうしたいのかを聞くようにしています。
――東大を目指す漫画『ドラゴン桜』の桜木先生のようですね。意識されていますか?
あんまり考えたことないですけど、共感する部分は多いです。あの作品のように実際の指導の場面でも、生徒が落ち込んだりする時期や辞めたいと言うことはよくあるので、その場面での声かけとか参考になります。
また、受験したとしても受かるかどうかわからないねというスタンスだと、生徒は受験勉強を頑張りにくい。受験は「絶対合格する」とは言い切れない部分はありますが、「君なら合格できるよ」と言い切って背中を押すことが教師の役割かなと思います。
――その他、苦労した点や工夫した点はありますか?
保護者の中には、大学に進学した経験がない方もいて、お子さんが大学に進学する必要があるのかと思う人もいるんですね。誰でも自分が知らない世界は不安なので、大学に行ってない保護者の不安もわかります。だから、保護者説明会では今の時代の現状を伝えることは意識しています。
「(最近の)大学進学率のパーセンテージ見たことありますか?」といった話や、「短大進学っていう話をする方もいますけれど、今の時代、短大に進学するのは、全国でも5%なんですよ」といった話をします。
人は、20代頃に過ごした時代の価値観を意識して、その後の人生を過ごしがちだという話を踏まえ、保護者の皆さんには「短大や大卒じゃなくても不自由なく過ごせていた時代とは変わっていますよ」と。今の時代を意識してお子さんの進学について、学校とお子さんと保護者とでチームになって考えましょうと伝えます。「今の時代の進学情報を伝えた上で、お子さんに決めさせませんか? 勝手に決めちゃうとあとから恨まれますよ」とお話ししますね(以下、後編「『舌にピアス』『ジャニーズ好き』の女子を難関の国公立大に6カ月で合格させた31歳・国語科教員のすごい技」へ続く)。
「舌にピアス」「ジャニーズ好き」の女子を難関の国公立大に6カ月で合格させた31歳・国語科教員のすごい技
もっとも低い偏差値の学科の生徒が急に「書く力」をつけられたワケ
https://president.jp/articles/-/57253
それまで定員割れが続いていた私立福岡女子商業高校(福岡県那珂川市)は2020年度に国公立大学の合格者を一気に20人も出した(前年度は0人)。2年前に国語科教員として赴任し、現在は校長も務める柴山翔太さん(31歳)に、どのように生徒の学力を底上げしたのか聞いた――(後編/全2回)。
柴山翔太さん写真=本人提供私立福岡女子商業高校校長の柴山翔太さん(31歳)全ての画像を見る(7枚)
2020年春に福岡女子商業高校に赴任する前に、神戸の私立神戸星城高校に勤務していました。そこは推薦選抜を活用して国公立大学に多くの子がチャレンジしている学校で、偏差値は50に満たないぐらいの学校にもかかわらず、毎年70人程度合格者が出ていました。その数字はまさに衝撃でした。
どんなことをすればそんなに多くの国公立大学の合格者を出せるのか。神戸星城の存在を知ったのはその前に在籍していた北海道の高校での教員時代。当時、特別に神戸星城へ研修に行かせてもらったんです。そこで指導のメインになっていたのは小論文でした。私自身、国語の教員ということもあり、小論文指導をすることもあったのですが、その研修で小論文指導のスキル、特に読解力をつけさせる指導法を学びました。
――実際に赴任した神戸星城での小論文指導は具体的にはどんな内容でしたか?
小論文指導は、希望者のみが受ける特別講座で期間としては8カ月ぐらいです。生徒たちを見ていると、その講座に参加していた子と、参加していない子には別の学校で学んだのではと思うくらい、学力の差が出ていると思ったんですね。
小論文というのは、現実に起きている日本や世界の問題に何らかの解決策を提示するものです。小論文指導を受けた子は、社会問題の知識や理解も圧倒的に深いと思いましたし、社会問題についても主体的に意見を持っている。会話をしていても、すごく感じましたね。
小論文を書くスキルをどのように授けたのか
――福岡女子商業高校でも同じやり方をしたんですか?
自分なりにアレンジはさせてもらっています。高3の春から始めて講座を週1回やって、特に力を入れるのは夏休み以降。3カ月間ぐらいが勝負です。夏休みは毎日指導しますね。週3日講座をやって、週2日は自由に小論文を書く時間にしています。
――例えば、どんなテーマで小論文を書くのでしょうか?
講座ではまずは生徒の身近な問題から取り上げます。たとえば「焼肉食べ放題って行ったことある? 食べ放題で食べていたら、途中で『もう肉がありません』って言われたとしたらどう思う?」という話から始めます。実際は「すいません、品切れです」という状況は聞いたことがない。そこで、生徒には「ということは、食材を余らせるくらいに仕入れることが前提になっているのかもしれないね」という話をしながら、フードロスや環境問題の話につなげてディスカッションしていきます。
――「フードロス」といったキーワードを学んでいくんですね。
小論文ノート写真=学校提供小論文ノート
このような「小論文ノート」を生徒それぞれが作っているんです。5cm以上の厚さのものを、1、2冊持っています。それで、自分が興味を持った言葉やわからない言葉を調べていくんですね。テーマは「フードロス」のほかにも、「裁判員制度」「男女格差」「ダイバーシティ」「貧困問題」など。小論文の入試で取り上げられそうな言葉の意味を調べて、問題点や解決策について自分の意見を書く。そんなノートを何カ月も必死に作っていたら、変わっていきます。
――ノートに学びを蓄積していくんですね。
受験した子たちが作った小論文ノートを、後輩のために高校に置いていってってお願いしたらみんな嫌だって言うんですよ。卒業アルバムのようにしんどかったときに見直したいとか、大学の授業でも役立ちそうだからって。
小論文ノート写真=学校提供小論文ノート
――分厚い小論文ノートをそれぞれが作るとはいえ、たった半年で小論文を書く力って身に付くのでしょうか?
半年あればある程度のところまで持っていくのは十分可能です。大人だとちょっと難しいかもしれないですけど、やっぱり高校生ってすごいんですよ。興味を持って学ぼうとしたら一気に伸びていきます。短期間だからこそできる、という面もありますね。
原稿用紙を見て、最初は「うわ~」とか生徒から嫌がられますけれど、書くことを続けていくとだんだん書くことに慣れていきます。
合言葉は「幼稚園児のように学び、発言しよう」
――(前編で)「舌にピアス」をしていたジャニーズ好きの女子生徒も国公立大学に合格したことをお聞きしましたが、最初は勉強アレルギーのような症状も出たのでしょうか。
まずは、間違ったものを書いたらどうしようとか、間違ったらどうしようという気持ちを取り除くことが一番大事かなと思いますね。うちの高校では「幼稚園児のように学ぼう」という話をします。授業中、誰も手を挙げない、自分の考えを言わないという状況では絶対に伸びない。みんなが、幼稚園児のように思ったことを発言し、活発的なディスカッションをしながら学んでいこうという意味ですね。小論文講座だけでなく、普通の授業でも行っています。
語句のマッピング写真=学校提供
――「幼稚園児のように学び、発言しよう」。いいですね。そうしたディスカッションを経て、生徒が書いた小論文の出来はいかがでしたか。
論文を書いたら、最初は書いたこと自体を褒めます。自分の視点が入っていたらOK。1回文章を持ってきてくれたら、「この1カ所だけ直してみたら」って言うくらいです。長期的には“考える習慣”を身に付けることが目的なので、良くないところは指摘せず、意見の中の面白いところを話すようにします。
ある程度、書くことに慣れてきたら、合格ラインまで文章の完成度を上げていかないといけないので、その後に「ここを変えよう」とか、「こういう要素が必要だよね」とか課題となる部分を指摘していきます。
小論文の受験勉強の中で、一番大事なのは自分の意見をアウトプットすることだと思います。だれかの考えを押し付けるのでは楽しさが出てこないので、続かない。アウトプットを続けていると、だんだん自分の意見を持つようになってくる。
あと、やっぱり集団の力の効果は大きいです。ある程度の人数で合格に向かって走り始めると面白くなってくる。一人でやるのはきついと思います。
小論文ノート写真=学校提供小論文ノート
――日本の大学入試が変わってきています。思考力・判断力・表現力が入試でも重視されるようになっていますが、書く力も重視されていると感じていますか?
大事になっていくと思います。知識とか、従来のペーパーテストだけで測る知識ではなく、欧米でやっているように、自分がどう思うといった考えを文章や口頭で発信することが日本の入試でも重要になってくるんではないかと思います。
こういった自分の考えを文章で表現するスキルは、大学に入ってからでも社会に出てからでも通用すると思うので、高校の段階で身に付けておくといいと思っています。
考える習慣って本当に難しいと思うんですけど、家庭でも親御さんたちに小中高のお子さんに「なんでそう思うのか?」を聞いてほしいなと思います。家で文章を書くのは難しいと思うのですが、まずは日常の会話の中で考える力が身に付けられたらいいなと思います。
感想;
・大学入学の高校推薦枠に目をつけたこと。
・小論文の指導を徹底して行ったこと。
それ以上に大きかったのは、大学に行きたい。
大学に行って、何かをしたいと、人生に大きな目的を持たせたことでしょう。
そして、自分でも可能性があると希望を持たせたことではないでしょうか。
自分の人生をどうしたいかを、しっかり考えたこと。
自分の可能性に見えないガラスの天井を取っ払ったこと。
人生に新たな希望と目的を持った子どもたちの未来が楽しみです。
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