『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その1』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その2』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その3』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その4』の続きです。
▲7七玉!
提供されていたボンクラーズ(プエラαの前身)を研究(対局)して、塚田九段は「玉を追わなければ、入玉はしない」という感触を得ていたが、▲7七玉は塚田九段の思惑を打ち砕いた。
『その4』と同じ局面、同じような文章………ごめんなさい、同じです。使い回しました。今回は、プエラαの指し手中心になりそうです。ただ、▲7七玉を考える前に、やや気になるプエラαの指し手がありましたので、局面を少しさかのぼります。
第11図は塚田九段が△6九金と飛車を取りに行った手だが、その直前の▲1四銀が今考えると気になる手だ。『その3』で私は「着実に駒を確保しに来た手で、しかも、▲2三銀成と歩を取った手も2四の銀取りになっており、可能性は低いが後手玉に迫る手にもなっており、当然の一手のように思える」と記している。
しかし、▲1四銀では飛車を助ける▲7七桂もありそうだ。この手で、飛車が助かるかどうか、また、先手玉が大丈夫なのか、はっきり分からないが、大丈夫のように思える。
もし、▲7七桂が成立したと仮定すると、プエラαは、『飛車(遊び駒)1枚<金(後手が飛車を取る時に手に入る)+歩+「先手を取りながら後手玉に迫れる」』と判断したのではないだろうか。これは、通常の中盤の形勢判断に基づいているように考えられる。
実際、飛車取りを放置して、▲2三銀成△2五銀▲2四成銀△1六銀を指してから、▲7七玉を指している。
▲7七玉は入玉志向の手だ。後手の塚田九段の飛車取りに打った△6九金が先手玉に迫る手になっているので、それに対応したと考えられるが、上記で述べたように、▲6九金にすぐ反応したわけではない。
▲7七玉以外有効な手がなく、▲7七玉が最も価値のある手と判断した「一手のみの判断」なのか、この局面において入玉が一番有効と「方針の決定」なのかは、この一手の段階ではわからない。
木村八段も述べていた、「▲7七玉と上がったが、次に▲8八玉と指す可能性もある」と。コンピュータは過去の判断や思考に囚われず、断片的に局面を捉える(直前の▲7七玉を尊重しない)ので、「玉の位置は8八の方が安定している」や「後手の成桂や成香から遠ざかったほうが良い」などと判断して、▲8八玉と指すかもしれない。
しかし、そういった期待を粉砕するかのごとく、プエラαは▲9五銀と玉の脱出口を開いた後は、駒を取り返すなど後手の手に最低限の対応をするだけで、ほぼ一目散に8六~7五~……~9一まで入玉させてしまった。
開発者の伊藤氏の「簡単ではあるが入玉対策も組み込んでいた」と述べていたが、どういう仕組みなのだろうか?
「入玉スイッチ」があって、その条件、①敵の駒に迫られた、②ある手数(たとえば120手)を超えた、③敵陣の駒を取るなどして一掃した、などの条件をクリアしたら、そのスイッチが入り、入玉を目指すのかと思ったが、勝又六段の推測によると、「玉を一段上部に進出する手の評価点を+300点(数値は推測)に設定しておいたのではないか」ということだ。
確かに▲7七玉(第12図)の局面ではさしたる有効な手はない。そこで、玉を一段上部進出させるプラス点が大きく評価値がそれより大きな手が存在せず、入玉一直線の指し手になったと考えると、辻褄が合う。
第13図では、双方入玉が確定しており、後手の塚田九段の駒数は17点。取られそうな駒はないので駒数が減ることはないだろうが、持将棋を持ち込むには7点必要で、小駒7枚か大駒1枚と小駒2枚獲得しなければならない。
しかし、大駒は移動力があるので捕まえるのは難しいうえ、プエラαの大駒3枚の動きを制限する駒も存在しないので、塚田九段がプエラαの大駒を取るのは至難の業である。となると、5段~7段に存在するプエラαの小駒を、それこそブルドーザーのようにすくい取るしかないが、これも不可能に近いように思われる。
プエラαとしては、2、3枚取られてもいいので、機械的に小駒を敵陣に進めていけば良い。プエラαの勝利は確定的に思えた…………
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その2』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その3』
『電王戦 第4局「Puella α VS 塚田九段」 その4』の続きです。
▲7七玉!
提供されていたボンクラーズ(プエラαの前身)を研究(対局)して、塚田九段は「玉を追わなければ、入玉はしない」という感触を得ていたが、▲7七玉は塚田九段の思惑を打ち砕いた。
『その4』と同じ局面、同じような文章………ごめんなさい、同じです。使い回しました。今回は、プエラαの指し手中心になりそうです。ただ、▲7七玉を考える前に、やや気になるプエラαの指し手がありましたので、局面を少しさかのぼります。
第11図は塚田九段が△6九金と飛車を取りに行った手だが、その直前の▲1四銀が今考えると気になる手だ。『その3』で私は「着実に駒を確保しに来た手で、しかも、▲2三銀成と歩を取った手も2四の銀取りになっており、可能性は低いが後手玉に迫る手にもなっており、当然の一手のように思える」と記している。
しかし、▲1四銀では飛車を助ける▲7七桂もありそうだ。この手で、飛車が助かるかどうか、また、先手玉が大丈夫なのか、はっきり分からないが、大丈夫のように思える。
もし、▲7七桂が成立したと仮定すると、プエラαは、『飛車(遊び駒)1枚<金(後手が飛車を取る時に手に入る)+歩+「先手を取りながら後手玉に迫れる」』と判断したのではないだろうか。これは、通常の中盤の形勢判断に基づいているように考えられる。
実際、飛車取りを放置して、▲2三銀成△2五銀▲2四成銀△1六銀を指してから、▲7七玉を指している。
▲7七玉は入玉志向の手だ。後手の塚田九段の飛車取りに打った△6九金が先手玉に迫る手になっているので、それに対応したと考えられるが、上記で述べたように、▲6九金にすぐ反応したわけではない。
▲7七玉以外有効な手がなく、▲7七玉が最も価値のある手と判断した「一手のみの判断」なのか、この局面において入玉が一番有効と「方針の決定」なのかは、この一手の段階ではわからない。
木村八段も述べていた、「▲7七玉と上がったが、次に▲8八玉と指す可能性もある」と。コンピュータは過去の判断や思考に囚われず、断片的に局面を捉える(直前の▲7七玉を尊重しない)ので、「玉の位置は8八の方が安定している」や「後手の成桂や成香から遠ざかったほうが良い」などと判断して、▲8八玉と指すかもしれない。
しかし、そういった期待を粉砕するかのごとく、プエラαは▲9五銀と玉の脱出口を開いた後は、駒を取り返すなど後手の手に最低限の対応をするだけで、ほぼ一目散に8六~7五~……~9一まで入玉させてしまった。
開発者の伊藤氏の「簡単ではあるが入玉対策も組み込んでいた」と述べていたが、どういう仕組みなのだろうか?
「入玉スイッチ」があって、その条件、①敵の駒に迫られた、②ある手数(たとえば120手)を超えた、③敵陣の駒を取るなどして一掃した、などの条件をクリアしたら、そのスイッチが入り、入玉を目指すのかと思ったが、勝又六段の推測によると、「玉を一段上部に進出する手の評価点を+300点(数値は推測)に設定しておいたのではないか」ということだ。
確かに▲7七玉(第12図)の局面ではさしたる有効な手はない。そこで、玉を一段上部進出させるプラス点が大きく評価値がそれより大きな手が存在せず、入玉一直線の指し手になったと考えると、辻褄が合う。
第13図では、双方入玉が確定しており、後手の塚田九段の駒数は17点。取られそうな駒はないので駒数が減ることはないだろうが、持将棋を持ち込むには7点必要で、小駒7枚か大駒1枚と小駒2枚獲得しなければならない。
しかし、大駒は移動力があるので捕まえるのは難しいうえ、プエラαの大駒3枚の動きを制限する駒も存在しないので、塚田九段がプエラαの大駒を取るのは至難の業である。となると、5段~7段に存在するプエラαの小駒を、それこそブルドーザーのようにすくい取るしかないが、これも不可能に近いように思われる。
プエラαとしては、2、3枚取られてもいいので、機械的に小駒を敵陣に進めていけば良い。プエラαの勝利は確定的に思えた…………
>上にStanleyさんも書かれていますが、木村八段の人柄が出ていますね…
木村八段の解説は棋界一だと思います。人柄も申し分なく、サービス精神も旺盛です。安食女流初段のほんわかぶりもいいですね。
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Puella αの伊藤英紀さんに終ってからすこし話を伺ったが、チラッと「入玉が決ったとき、終ってもらいたかったです」と苦笑しながらもらした。
話によると、入玉のデータが入ってないことに気が付き、直前に憶えさせたのだそうだ。
だから入玉するまではよかったが、その後の駒の処理法をPuella αは知っておらず、わけがわからないまま指すことになった。
それが伊藤さんには我が子が恥をさらしているように思えたのだろう
>>
河口氏の観戦記は私も拝見しました。
私も上記のようなことを感じていまして、その点について書こうと思っていました。
>ちなみにそのニコニコの観戦記のタイトルはごくシンプルに「電王戦記」なのですが、なんだか将棋には全く無関係なゲームかアニメのタイトルみたいで笑えました
確かに、そうですね(笑)。
>私もStanleyさんと同じで、最後の記事のところに書くべきコメントだったような気もしましたが、ついつい書いてしまいました
これは私に責任がありますね。更新が不定期で、遅いですから。
実は、今回の記事で終了する予定だったのですが、力尽きました。終章はなるべく早くアップします。
入玉模様でコンピュータ将棋がどのような手を指すのかは、私も興味がありました。(その考察については、次回の記事で)
>塚田九段は71手目の▲6三馬に対して入玉を決めたそうです。そして練習将棋では8八玉のままだったのが、▲7七玉とあがられソフトが入玉を目指したとき、だめだと思われたようです。
この点については、前回までの記事で書いていますが、例によって拡散する文章で、内容が把握しにくかったようで、申し訳ありません。
>その後▲8六馬とした前後では、画面右上の数字がマイナス3311だったのがマイナス31に大幅に変化し、なんと形勢判断も互角になったのでした
この点については、入玉模様となり形勢判断があまり意味を持たなくなったので、運営側が急きょ駒数をポイント化したのがその辺りの局面だったと記憶しています。
>今日は独立記念日の休日なので
そういえば、Stanleyさんは合衆国に在住でしたね。遠くからコメントありがとうございます(ネットは距離は関係ありませんが)。
でも、上にStanleyさんも書かれていますが、木村八段の人柄が出ていますね…
>開発者の伊藤氏の「簡単ではあるが入玉対策も組み込んでいた」と述べていたが、どういう仕組みなのだろうか?
英さんも読んでおられるとは思いますが、ニコニコの河口俊彦先生の観戦記にちらっと書ったところによれば…
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Puella αの伊藤英紀さんに終ってからすこし話を伺ったが、チラッと「入玉が決ったとき、終ってもらいたかったです」と苦笑しながらもらした。
話によると、入玉のデータが入ってないことに気が付き、直前に憶えさせたのだそうだ。
だから入玉するまではよかったが、その後の駒の処理法をPuella αは知っておらず、わけがわからないまま指すことになった。
それが伊藤さんには我が子が恥をさらしているように思えたのだろう
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河口先生の観戦記も大変に面白いです…
この将棋は、将棋の内容以上に多くのものを残してくれるような気がします(笑汗)
私もStanleyさんと同じで、最後の記事のところに書くべきコメントだったような気もしましたが、ついつい書いてしまいました
ちなみにそのニコニコの観戦記のタイトルはごくシンプルに「電王戦記」なのですが、なんだか将棋には全く無関係なゲームかアニメのタイトルみたいで笑えました
実は私がニコ生を観戦したのはこの数手前からでした。木村八段の解説も人間が負けると断言していたのです。しかし9点の大差が、ここからドラマが始まったのです。先手玉が9一に逃げた後、△8一金と打ち馬を取ったあと、1枚1枚塚田九段が駒を取り、▲4三歩で木村八段が俄然元気になったな~!後1点で引き分け、解説者の読みが当たった瞬間でした。その後▲8六馬とした前後では、画面右上の数字がマイナス3311だったのがマイナス31に大幅に変化し、なんと形勢判断も互角になったのでした。そして最後の1枚を取り点数が24点に達した時は超盛り上がりましたね。観戦していて素晴らしい感動的な将棋だったという感想でした。ソフトも入玉を目指し絶体絶命だったのが、人間が根性で引き分けに持ち込み奇跡の持将棋が成立。木村八段の鋭い突っ込みと安食女流初段のおっとりした絶妙の組み合わせは、とても楽しかったです。本当は次の記事でコメントすればよかったですが、今日は時間に余裕があるのでコメントしました。