(諸般の事情により、部分図です)
封じ手の局面。物理的な後手の指し手は3手だが、自陣の急所の5二の成桂を取らずに逃げる△3一玉は有り得ないので、実質、△5二同玉か△5二同銀の2つ。
一見、△5二同銀だと▲6二歩成と“と金”を作られてしまうので、素人的には△5二同玉としたくなる。しかし、△5二同玉には▲6四角成△5四銀▲2四飛△2三歩▲3四飛とされると後手が困っていそう(以下3二の金取りを防いで△3三歩と打つと、▲4四飛△同歩▲5三桂成がある)。なので、控室はけっこう早い段階で「△5二同銀の一手」と結論付けられていた。
しかし、藤井王将の手は動かない。30分…1時間経過。《まあ、大事な一局だし、持ち時間もたっぷりなので、慎重に読みを入れているのだろう》とか考えていた。
1時間30分経っても考えている……2時間経過、封じ手の時刻まであと少し。このまま、封じそうだ。
そのまま封じ手になり、2時間24分の大長考となった。
何を考えていたのだろう?
確かに、封じ手の局面は大きな分岐点である。
《進めずに深く読んで、勝利への道筋を組み立てて2日目を迎えた方が良い》
もしかしたら、詰みまで読んでいたのかもしれない。
そう言えば、『ハチワンダイバー』という漫画があったなあ(ドラマ化されて、私はそれを視聴した)。その中で、主人公は、深く深く読みを入れていていく……その感覚が《盤の中に潜水していく》イメージだった。
藤井王将は、深く深く読みを入れて、自分の潜水限界を突破しようとしていたのか?
いや、局面を勧めずにわざと残り時間を減らして(残り2時間45分)、《羽生九段相手なら、3時間弱で充分!》……なんてことは、絶対思わないだろうなあ。
一番考えられるのは、△5二同銀以下、思わしくない変化を見つけ、その対応策に苦慮していた。そして、うまい対応策が見つけられず、△5二同玉の変化に光明を見つけようとした。
あるいは、△5二同玉以下の手順にも自信があり、△5二同銀以下の手順と比較検討していた。……苦心惨憺の時間だったかもしれないし、どちらが良いかという至福の時間だったかもしれない。いや、藤井君にしてみれば、苦心惨憺も楽しいのかもしれない。
私的には、《これだけ時間のハンデをくれれば、△5二同銀と指され、或いは、△5二同玉以下AIや検討陣の思いもよらない妙手順で、羽生九段が不利になっても、そこで、踏みとどまって形勢を引き離されずにいれば、チャンスがあるかもしれない》と考えていた。
いずれにしても、2日目が楽しみだった。
封じ手が「△5二同玉」と分かった時は、やはり、嬉しかった。
封じ手局面より少し前
先手の羽生九段が▲7三角と打ったところ。次は当然、▲6二歩成。なので、後手はそれを受けなければならないが、普通は△6一歩だ。実際、先手の玉形が少し違うが、昨年の叡王戦予選▲徳田四段-△折田四段戦(段位は当時の段位)では△6一歩と受けていた(2022年7月7日)。この時は、以下▲2四歩△同歩▲同飛△2三銀▲2五飛と進んで先手が勝っている。
本局の△6一銀(部分図2)はその将棋の修正手か。
上記の一局の情報を提示した谷川九段も「調べてみたが、△6一銀しかない」という見解。
谷川九段は「やはり6一歩の形は悪い形なのかも」と。さらに、「8一の飛、7一の金、6一の銀の並びも気持ち悪い」も気持ち悪いと苦笑い。……確かに、下段飛車の横の道を二重に塞いでおり、初形とは逆の金銀の位置だ。
で、6一へ銀を打つ意義は、先の変化と同様に▲2四歩△同歩▲同飛と来た場合、△2三銀ではなく△2三歩と打てる(銀を打ちたくても、既に銀を6一に打っているので持駒に銀はないが)。徳田-折田戦で△2三銀と打ったのは、▲3四飛(変化図1)と横歩を取らせないため。
変化図1では▲5二桂成△同玉▲3二飛成という攻めがある。しかし、6一に歩を使っているため、3三に歩が打てず、受けが難しくなっている。
△6一銀は、《歩の温存》の他に、《先手の6四桂の利きをカバーしている》という利点もあり、ここさえ凌げば、自ずとよくなるという考え方であろう。
羽生九段は気持ちよく攻めているようだが、最初に桂銀交換の駒損をしているので、受け止められてしまうと不利になりそう。そこで、二の矢が▲5二桂成の成り捨て(部分図3・再掲載)
感想戦では、当然、△5二同銀の変化が深く調べられた。以下、▲6二歩成△同金▲同角成(変化図2)までは必然。
以下、いろいろ調べられたが、羽生九段の手が滞る局面が多かったように感じた。
実戦は、AIや検討陣が推す△5二同銀ではなく、△5二同玉を着手したわけだが、指したのが藤井五冠、しかも、2時間以上熟考して指したのだから、思いもよらぬ妙手順が披露されるかもしれない(←二度目の言い回し)。羽生九段の勝利を欲してやまないが、けっこうワクワクして観ていた。
△5二同玉以下、▲6四角成△5四銀▲2四飛までは想定手順。ここで、△2三角!(部分図4)
先にも書いたように、▲3四飛とされると、3二の金取りと▲4四飛△同歩▲5三桂成の二つの狙いを受けられない。その▲3四飛を防いでの2三へ角打ち。
しかし、こんなところへ角を打つのでは、苦しい。しかも、先手になっていない。
とは言え、《ここを受け止めてしまえば、光明が差してくるはず》というのが藤井王将の思惑。
ところが▲2三飛成!……“こんなところの角”と飛車の交換。先手としては勿体ない取引である。
「▲3一角(部分図5)が思ったより厳しくダメにしてしまった」と、藤井王将の感想。
藤井王将としては、《つらい気持ちで打った角を飛車と交換は有難い》という先入観があったのだろう。
飛車切りから角打ちが決め手となった。
しかし、藤井王将の次の一手には、びっくり!……△6二銀!(部分図6)……歩頭への銀捨て
銀を犠牲にして、目障りな先手の6三の歩を解消し、7一で働きの弱かった金を玉に寄せる勝負手だ。しかも、この手順にはもう一つの狙いがあった。
△6二銀以下、▲同歩成△同金にもらった銀を▲4二銀と後手玉の腹に据え、玉頭である5三の地点に集中攻撃。
5三に利かす△4一桂に、構わず▲5三桂成(部分図7)。
これに△同桂だと、▲5四馬と銀を取られて困るので、△5三同銀と取るが、▲5三銀不成△同桂(部分図8)と進む。
ここで、先ほどと同じ様に▲5四馬と銀を取ると、△3一飛と角を取られて「あれぇ!」となってしまう。
流石にそうはならず、▲4二銀が着実の攻め。仕方なしの△3一飛に▲同銀不成で寄せ形。以下、△6三銀打と抵抗するが▲3二飛~▲9一馬(部分図9)で挟撃態勢。
以後は、藤井王将も先手陣に嫌味をつけるが、自然かつ最強の応手で受け止め、勝ち切った。
藤井王将にしては“不出来の一局”だったと思えるが、羽生九段の“快勝”と言いたい。
2勝2敗で喜ぶのはどうかと思うが、第五局に勝つと、《もしかしたら》と期待が大きくなる。
もしかしたら、藤井五冠が不調なのかもしれない(う~ん、羽生九段に失礼だな。羽生九段が復調したと考えたい)。
棋王戦第二局(2月18日・石川県金沢市)が注目である。
封じ手の局面。物理的な後手の指し手は3手だが、自陣の急所の5二の成桂を取らずに逃げる△3一玉は有り得ないので、実質、△5二同玉か△5二同銀の2つ。
一見、△5二同銀だと▲6二歩成と“と金”を作られてしまうので、素人的には△5二同玉としたくなる。しかし、△5二同玉には▲6四角成△5四銀▲2四飛△2三歩▲3四飛とされると後手が困っていそう(以下3二の金取りを防いで△3三歩と打つと、▲4四飛△同歩▲5三桂成がある)。なので、控室はけっこう早い段階で「△5二同銀の一手」と結論付けられていた。
しかし、藤井王将の手は動かない。30分…1時間経過。《まあ、大事な一局だし、持ち時間もたっぷりなので、慎重に読みを入れているのだろう》とか考えていた。
1時間30分経っても考えている……2時間経過、封じ手の時刻まであと少し。このまま、封じそうだ。
そのまま封じ手になり、2時間24分の大長考となった。
何を考えていたのだろう?
確かに、封じ手の局面は大きな分岐点である。
《進めずに深く読んで、勝利への道筋を組み立てて2日目を迎えた方が良い》
もしかしたら、詰みまで読んでいたのかもしれない。
そう言えば、『ハチワンダイバー』という漫画があったなあ(ドラマ化されて、私はそれを視聴した)。その中で、主人公は、深く深く読みを入れていていく……その感覚が《盤の中に潜水していく》イメージだった。
藤井王将は、深く深く読みを入れて、自分の潜水限界を突破しようとしていたのか?
いや、局面を勧めずにわざと残り時間を減らして(残り2時間45分)、《羽生九段相手なら、3時間弱で充分!》……なんてことは、絶対思わないだろうなあ。
一番考えられるのは、△5二同銀以下、思わしくない変化を見つけ、その対応策に苦慮していた。そして、うまい対応策が見つけられず、△5二同玉の変化に光明を見つけようとした。
あるいは、△5二同玉以下の手順にも自信があり、△5二同銀以下の手順と比較検討していた。……苦心惨憺の時間だったかもしれないし、どちらが良いかという至福の時間だったかもしれない。いや、藤井君にしてみれば、苦心惨憺も楽しいのかもしれない。
私的には、《これだけ時間のハンデをくれれば、△5二同銀と指され、或いは、△5二同玉以下AIや検討陣の思いもよらない妙手順で、羽生九段が不利になっても、そこで、踏みとどまって形勢を引き離されずにいれば、チャンスがあるかもしれない》と考えていた。
いずれにしても、2日目が楽しみだった。
封じ手が「△5二同玉」と分かった時は、やはり、嬉しかった。
封じ手局面より少し前
先手の羽生九段が▲7三角と打ったところ。次は当然、▲6二歩成。なので、後手はそれを受けなければならないが、普通は△6一歩だ。実際、先手の玉形が少し違うが、昨年の叡王戦予選▲徳田四段-△折田四段戦(段位は当時の段位)では△6一歩と受けていた(2022年7月7日)。この時は、以下▲2四歩△同歩▲同飛△2三銀▲2五飛と進んで先手が勝っている。
本局の△6一銀(部分図2)はその将棋の修正手か。
上記の一局の情報を提示した谷川九段も「調べてみたが、△6一銀しかない」という見解。
谷川九段は「やはり6一歩の形は悪い形なのかも」と。さらに、「8一の飛、7一の金、6一の銀の並びも気持ち悪い」も気持ち悪いと苦笑い。……確かに、下段飛車の横の道を二重に塞いでおり、初形とは逆の金銀の位置だ。
で、6一へ銀を打つ意義は、先の変化と同様に▲2四歩△同歩▲同飛と来た場合、△2三銀ではなく△2三歩と打てる(銀を打ちたくても、既に銀を6一に打っているので持駒に銀はないが)。徳田-折田戦で△2三銀と打ったのは、▲3四飛(変化図1)と横歩を取らせないため。
変化図1では▲5二桂成△同玉▲3二飛成という攻めがある。しかし、6一に歩を使っているため、3三に歩が打てず、受けが難しくなっている。
△6一銀は、《歩の温存》の他に、《先手の6四桂の利きをカバーしている》という利点もあり、ここさえ凌げば、自ずとよくなるという考え方であろう。
羽生九段は気持ちよく攻めているようだが、最初に桂銀交換の駒損をしているので、受け止められてしまうと不利になりそう。そこで、二の矢が▲5二桂成の成り捨て(部分図3・再掲載)
感想戦では、当然、△5二同銀の変化が深く調べられた。以下、▲6二歩成△同金▲同角成(変化図2)までは必然。
以下、いろいろ調べられたが、羽生九段の手が滞る局面が多かったように感じた。
実戦は、AIや検討陣が推す△5二同銀ではなく、△5二同玉を着手したわけだが、指したのが藤井五冠、しかも、2時間以上熟考して指したのだから、思いもよらぬ妙手順が披露されるかもしれない(←二度目の言い回し)。羽生九段の勝利を欲してやまないが、けっこうワクワクして観ていた。
△5二同玉以下、▲6四角成△5四銀▲2四飛までは想定手順。ここで、△2三角!(部分図4)
先にも書いたように、▲3四飛とされると、3二の金取りと▲4四飛△同歩▲5三桂成の二つの狙いを受けられない。その▲3四飛を防いでの2三へ角打ち。
しかし、こんなところへ角を打つのでは、苦しい。しかも、先手になっていない。
とは言え、《ここを受け止めてしまえば、光明が差してくるはず》というのが藤井王将の思惑。
ところが▲2三飛成!……“こんなところの角”と飛車の交換。先手としては勿体ない取引である。
「▲3一角(部分図5)が思ったより厳しくダメにしてしまった」と、藤井王将の感想。
藤井王将としては、《つらい気持ちで打った角を飛車と交換は有難い》という先入観があったのだろう。
飛車切りから角打ちが決め手となった。
しかし、藤井王将の次の一手には、びっくり!……△6二銀!(部分図6)……歩頭への銀捨て
銀を犠牲にして、目障りな先手の6三の歩を解消し、7一で働きの弱かった金を玉に寄せる勝負手だ。しかも、この手順にはもう一つの狙いがあった。
△6二銀以下、▲同歩成△同金にもらった銀を▲4二銀と後手玉の腹に据え、玉頭である5三の地点に集中攻撃。
5三に利かす△4一桂に、構わず▲5三桂成(部分図7)。
これに△同桂だと、▲5四馬と銀を取られて困るので、△5三同銀と取るが、▲5三銀不成△同桂(部分図8)と進む。
ここで、先ほどと同じ様に▲5四馬と銀を取ると、△3一飛と角を取られて「あれぇ!」となってしまう。
流石にそうはならず、▲4二銀が着実の攻め。仕方なしの△3一飛に▲同銀不成で寄せ形。以下、△6三銀打と抵抗するが▲3二飛~▲9一馬(部分図9)で挟撃態勢。
以後は、藤井王将も先手陣に嫌味をつけるが、自然かつ最強の応手で受け止め、勝ち切った。
藤井王将にしては“不出来の一局”だったと思えるが、羽生九段の“快勝”と言いたい。
2勝2敗で喜ぶのはどうかと思うが、第五局に勝つと、《もしかしたら》と期待が大きくなる。
もしかしたら、藤井五冠が不調なのかもしれない(う~ん、羽生九段に失礼だな。羽生九段が復調したと考えたい)。
棋王戦第二局(2月18日・石川県金沢市)が注目である。
>なんか、このシリーズ。
>羽生先生も藤井先生もそうなのですが、
>『長考』の後の手が、悪い手・・・・。
このシリーズに限らず、また、豊島九段も、長考が実らない、逆効果になることは多いように思います。
羽生九段に関しては、ここ数年、特に感じます。
でも、この七番勝負は、“夕食休憩がない”のが、羽生九段にとってはいいですね。
大長考は一局に関してはいい結果が出なくても、その長考は今後に生きてくると思います。
なんか、このシリーズ。
羽生先生も藤井先生もそうなのですが、
『長考』の後の手が、悪い手・・・・。
しかも『敗着』かそれに近い手になってる
ような気がするのですが・・・・。
仕事に行く前に書いているので、
『裏』をちゃんととっていないのは、
ちょっとご容赦のほどを・・・・。
ではではっ。