ひとしれず いはぬおもひの わびしきは ただになみだの ぬらすなりけり
人しれず いはぬ思ひの わびしきは ただに涙の ぬらすなりけり
人知れず思い、口には出さない恋のわびしさに、ただただ涙が頰を濡らすのであったよ。
初句の「ひとしれず」は貫之が好んだフレーズのようで、この 632 以外にも貫之集には 17 に始まって152、503、539、633、657、さらに「ひとしれぬ」が 542 にあるということで、多くの歌がこの初句から詠まれています。勅撰和歌集にも、17 が拾遺和歌集に、542 が古今和歌集(0606)に採られており、また新千載和歌集には 539 と非常に良く似た歌(一方が他方の改作であるのかもしれません)が採録されています。