ことしより はるしりそむる さくらばな ちるといふことは ならはざらなむ
今年より 春知りそむる 桜花 散るといふことは ならはざらなむ
紀貫之
今年から春を知り始めた桜花よ、「散る」などということは習得しないでおくれ。
こから70首ほど続く桜の歌の一首目。詞書には、「人の家にうゑたりける桜の、花咲きはじめたりけれるを見てよめる」とあります。知人の家の庭に植えられた桜の木が、今年初めて花をつけた。咲いた花はいずれ散るのは分かっているけれど、「花を咲かすことを今年初めて覚えた桜よ、咲くことは覚えても散ることは覚えなくていいからね」と呼びかけて落花を惜しむ気持ち。