としふれば よはひはおひぬ しかはあれど はなをしみれば ものおもひもなし
年ふれば よはひは老ひぬ しかはあれど 花をし見れば もの思ひもなし
前太政大臣
年月が経って私も年老いてしまったが、花をていれば思い煩うことはない。
0007 でもご紹介した通り、作者の前太政大臣とは藤原良房のこと。詞書には、「染殿の后の御前に、花瓶に桜の花をささせたまへるを見てよめる」とあります。「染殿の后」とは文徳天皇の后で、良房の娘。詞書も併せて読めば、歌われている「花」は桜であると同時に、自身の娘の比喩でもあることがわかります。美しく成長し天皇の后となった愛娘を見て、自らの老いを思い煩う気持ちすらどこかに消えてしまうという親心。