つきよよし よよしとひとに つげやらば こてふににたり またずしもあらず
月夜よし 夜よしと人に つげやらば こてふに似たり 待たずしもあらず
よみ人知らず
月が美しいすばらしい夜だとあの人に告げたならば、それは「来てください」と言っているようなもの。待っていない、という訳ではないけれど。
いとしい人の来訪を心待ちにしているのだけれど、直接的に「来てほしい」などと言うのは憚られる。そんな複雑な恋心ですね。「こてふ」は「来てふ」で、「来といふ」が縮まった表現。表現、内容ともに類似する万葉集の歌を踏まえた詠歌とも言われています。
わがやどの うめさきたりと つげやらば こといふににたり ちりぬともよし
我が宿の 梅咲きたりと 告げ遣らば 来と言ふに似たり 散りぬともよし
よみ人知らず
(万葉集 巻第六 第1011番)