そでひちて むすびしみづの こほれるを はるたつけふの かぜやとくらむ
袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ
紀貫之
去年の夏、袖を濡らして掬った水。それが冬の間に凍ったのを、立春の今日の風が解かしていることだろうか。
2番は、4人いる古今和歌集の選者の一人で、その中でも中心的な役割を果たしたと言われる紀貫之の歌。たった31文字の中で夏~冬~春と3つの季節の移り変わりを巧みに詠みこんでいます。
貫之は古今和歌集に102首が採録されていて、作者別ではもっとも多い採録数となっています。2番目に多いのが凡河内躬恒の60首ですから、圧倒的に多いですね。
古今集で紀貫之と言えば、歌だけでなく、我が国最初の本格的歌論と言われる仮名序(かなで書かれた序文)にも触れないわけにはいきません。冒頭部分は余りにも有名です。
やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざしげきものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて言い出せるなり。花に泣く鶯、水に住むかはずの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
花に鳴くうぐいすや水に住むかえるの鳴き声を聞けば、一体誰が歌を詠まない者があろうか、というわけです。漢詩が知識人・貴族がたしなむべき本道とされてきた時代にあって、和歌こそが神話の時代から我が国に根付いた価値ある文化であることを主張する貫之の意気込みが伝わってくる文章ですね。
・・・無事に2番もアップできました。読んでいただいてありがとうございました。m(_ _)m