漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0939

2022-05-26 06:23:37 | 古今和歌集

あはれてふ ことこそうたて よのなかを おもひはなれぬ ほだしなりけれ

あはれてふ ことこそうたて 世の中の 思ひ離れぬ ほだしなりけれ

 

小野小町

 

 「あはれ」という言葉こそが、ますます出家してこの俗世から離れる思いになれない束縛なのであったよ。

 「うたて」は「ますますはなはだしく」、「思ひ離る」は「出家して俗世から離脱する」、「ほだし」は「束縛するもの」の意。現代の感覚ではややわかりづらいですが、出家することは当時の理想で、小町自身も出家したい思いはあるけれど、人恋しい思いが妨げとなってそれができない葛藤を詠んだ歌ということのようです。


古今和歌集 0938

2022-05-25 05:17:37 | 古今和歌集

わびぬれば みをうきくさの ねをたえて さそふみづあらば いなむとぞおもふ

わびぬれば 身をうき草の 根を絶えて さそふ水あらば 去なむとぞ思ふ

 

小野小町

 

 つらい気持ちで過ごしているうちに自身の身がいやになってしまいましたので、根のない浮草が水に流れて行くように、私も誘ってくれる人があるならば、都を去ろうかと思っています。

 詞書には「文屋康秀、三河掾(みかはのぞう)になりて、県見(あがたみ)にはえ出で立たじやと、言ひやれりける返事(かへりごと)によめる」とあります。「県見」は地方を視察することで、文屋康秀が地方官として赴任するに際して、「視察に行くことはできませんか?」と小町をやんわりと誘っているのですね。それに対する返答の歌が本歌で、実際に同行はできないものの、「わが身がつらく、都を去っても良いほどです」と返したというわけです。六歌仙に名を連ねる二人のやりとりとしても興味深いですね。

 


古今和歌集 0937

2022-05-24 05:34:23 | 古今和歌集

みやこびと いかがととはば やまたかみ はれぬくもゐに わぶとこたへよ

都人 いかがと問はば 山高み 晴れぬ雲居に わぶとこたへよ

 

小野貞樹

 

 都の人が、あの男はどうしていると尋ねたならば、山が高いので雲が晴れない場所で、心も晴れずに暮らしていると答えてください。

 詞書には「甲斐守にはべりける時、京へまかり上りける人につかはしける」とあります。甲斐国の長官として赴任していた際に京へ行く人に託したということですから、「山が高くて雲が晴れない場所」とは甲斐国のこと。そこでの暮らしも「わぶ」ということですから、甲斐への赴任は心ならずのものだったのかもしれません。
 作者の小野貞樹(おの の さだき)は小野小町の夫とも言われている人物で、その小町との間の贈答歌が 0783 に採録されています。古今集への入集はこの二首ですね。


古今和歌集 0936

2022-05-23 06:53:54 | 古今和歌集

しかりとて そむかれなくに ことしあれば まづなげかれぬ あなうよのなか

しかりとて そむかれなくに 事しあれば まづ嘆かれぬ あな憂世の中

 

小野篁

 

 そうだからといって出家・隠遁することもできないのに、何か事があるとまっさきにため息をついてしまうのだ。ああ、つらい世の中だ、と。

 第二句の「そむく」はここでは世の中に背を向ける、すなわち出家・隠遁する意。第二句「そむかれなくに」の「れ」、第四句「まづ嘆かれぬ」の「れ」はいずれも自発の助動詞「る」の未然形で、「自然と~される」「~せずにはいられない」意ですね。


古今和歌集 0935

2022-05-22 06:04:24 | 古今和歌集

かりのくる みねのあさぎり はれずのみ おもひつきせぬ よのなかのうさ

雁の来る 峰の朝霧 晴れずのみ 思ひ尽きせぬ 世の中の憂さ

 

よみ人知らず

 

 雁の飛ぶ季節の峰の朝霧が晴れることがないように、私の心も晴れず、物思いの尽きることがないこの世のつらさよ。

 雁の飛ぶ季節は秋のこと。秋は春とはまた違ったとても良い季節ですが、イメージとしてはやはり寂しさ、物悲しさといったところが強いでしょうか。和歌に歌われる秋もそうしたイメージのものが多いですね。