漢検一級 かけだしリピーターの四方山話

漢検のリピート受検はお休みしていますが、日本語を愛し、奥深い言葉の世界をさまよっています。

古今和歌集 0919

2022-05-06 05:18:30 | 古今和歌集

あしたづの たてるかはべを ふくかぜに よせてかへらぬ なみかとぞみる

あしだづの たてる川辺を 吹く風に 寄せてかへらぬ 波かとぞ見る

 

紀貫之

 

 鶴が立っている川辺は、吹く風によって寄せて来たまま返らない波かと見える。

 詞書には「法皇西河におはしましたりける日、『鶴、洲に立てり』といふことを題にて、よませたまひける」とあります。「法皇」は第59代天皇であった宇多法皇のこと。与えられた題による題詠ですので、実景ではなく想像の歌ということですね。波は寄せては返すものですが、舞い降りてそこにたたずむ鶴の白い羽根が寄せて来たまま返らない波のように見えた、という詠歌です。


古今和歌集 0918

2022-05-05 05:26:29 | 古今和歌集

あめにより たみののしまを けふいけど なにはかくれぬ ものにぞありける

雨により 田蓑の島を けふ行けど 名にはかくれぬ ものにぞありける

 

紀貫之

 

 雨が降ったので、濡れないように田蓑の島に今日行ったけれども、蓑という名がついているというだけでは、雨から身を隠してはくれないものであったよ。

 詞書には「難波にまかりける時、田蓑の島にて雨にあひてよめる」とあり、第四句の「名には」には地名の「難波」も詠み込まれていることがわかります。雨が降ったので「蓑(=雨を防げるはず)」の名を持つ田蓑の島に行ったが、その名だけでは雨は防げずに濡れてしまった、という諧謔味のある歌ですね。


古今和歌集 0917

2022-05-04 04:58:39 | 古今和歌集

すみよしと あまはつぐとも ながゐすな ひとわすれぐさ おふといふなり

すみよしと 海人は告ぐとも 長居すな 人忘れ草 生ふといふなり

 

壬生忠岑

 

 住吉はその名の通り住みやすいところだと漁師が言っても、長居はしないように。人を忘れるという忘れ草が生えているというから。

 「すみよし」は地名の「住吉」と「住み良し」の掛詞。「長居」も、平安中期に「長居の浦」という地名があったとのことで、こちらも地名が掛かっているのかもしれません。


古今和歌集 0916

2022-05-03 06:00:01 | 古今和歌集

なにはがた おふるたまもを かりそめの あまとぞわれは なりぬべらなる

難波潟 おふる玉藻を かりそめの あまとぞわれは なりぬべらなる

 

紀貫之

 

 

 難波潟に生えている玉藻を刈ると、ほんの一時、私は海人になったような気持ちになることだ。

 第三句の「かり」が「(玉藻を)刈り」と「仮(そめ)」の掛詞になっています。序詞と言ってしまって良いのかわかりませんが、冒頭二句が「刈り」を導き、同音で始まる「かりそめ」に繋げる技法ですね。なので、貫之が実際に藻を刈ったというより、難波潟を訪れた貫之がその広大な自然の風景に自分を投影した想像の歌ということのように思えます。

 


古今和歌集 0915

2022-05-02 04:39:05 | 古今和歌集

おきつなみ たかしのはまの はままつの なにこそきみを まちわたりつれ

沖つ波 たかしの浜の 浜松の 名にこそ君を 待ちわたりつれ

 

紀貫之

 

 沖の波が高い高石の浜の浜松の名の通り、あなたが来るのを待ち続けていました。

 0914 への返歌。「おきつ」が「沖つ」と「興津」、「たかし」が「高し」と「高石」の掛詞になっています。実質的な意味内容は最後の「君を待ちわたりつれ」の部分だけになりますが、それを三十一文字に歌い上げるところが和歌の妙ですね。