monologue
夜明けに向けて
 



思春期から青春期にかけてのわたしに最も強い影響を与えた歌は村田英雄 の柔道一代であったけれど文学ではなにだったのかと振り返ってみる。それは三島由紀夫の 「金閣寺」だった。作品中に盛られた禅の公案などは青春期のわたしには到底理解不能であったけれど三島の言わんとする美の哲学はわかるような気がした。のちにかれの名前ががノーベル文学賞候補に挙げられたとき当然と思った。そして受賞できなかったことも当然と感じた。かれの域に達して強く推す審査員は少ないだろうからと。

 そして文学ではないけれど書物として最も惹かれたのは世阿弥の「風姿華傳」つまり「花伝書」 だった。それは一見能楽の指南書のようであり実はありとあらゆる表現者にむけての秘伝書であった。ずいぶん昔読んだはずだが「秘すれば花」や「時分の花」のように今でも折に触れて甦ることばがある。この書はわたしに限らず日本民族全体の大切な財産なのだろう。こんな書物を残した世阿弥という人物を過去に輩出したことをわたしたちは誇っていいのではないかとさえ思う。とにもかくにもこの二冊が青春時代のわたしの精神形成に大きくかかわったようである。
fumio


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