monologue
夜明けに向けて
 



美術の分野でわたしに最も強い影響を与えたのはフランソワ=オーギュスト=ルネ・ロダン(François-Auguste-René Rodin)である。ロサンジェルスのラ・ブレア・タールピッツ にある美術館博物館群(美術館、近代美術館、博物館)には、その頃まだアメリカには余裕があってそれらの施設の入館料がタダだったのでよく通ったものだった。美術館(LAカウンテイ・ミュージアム ) はゆっくり見てまわると一日かかるほど多くの作品が展示してあったがとりわけ豊富であったのがロダンの作品群だった。初めて美術館に入った日一般の展示作品を見て回ってから階上のロダンの作品の展示場へ行くと雰囲気が変わった。ロダンの熱い息吹を感じたのだ。よく知られている「地獄の門」「考える人」や「カレー市民」にはそれほど心を奪われなかったが、それ以外の作品にそれまでの自分の常識的感性をひきはがされるような衝撃を覚えその造形に眼を奪われた。世の中にこんなすごいアーティストがいるのかと驚いた。以来、その美術館にゆくたびにロダンの作品をじっくり見るのが楽しみになった。そのうちだんだん慣れてめまいのような感覚は薄れていったがそれでも初めてロダンの展示場に入った時に受けたかれの熱い息吹はわたしのどこかに財産として残っているのである。今、この時点にも世界のどこかでロダンの作品を初めて眼にしてわたしと同じような衝撃を受けている人がいるのだろう。
fumio

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