monologue
夜明けに向けて
 




 さてそれではわたしに最も強い影響を与えた映画はなにだったのか。それはご他聞に洩れず黒澤映画だった。日本で見たのではなくサンタモニカのリバイバル映画専門館で見た黒澤作品である。その劇場では年に何回かクロサワウイークがありその間は黒澤の作品だけを上映するのである。その期間にUCLAの映画科の学生であったフランシス・フォード・コッポラやジョージ・ルーカスがまとめて見て勉強したのだろう。わたしたち夫婦もクロサワウイークに「生きる」 を見に行った。満員の劇場で英語字幕の映画を息をつめて見た。ブランコで志村喬が自分自身に対して、そして観客に対して、生きているうちになすべきことをなせと「命短し恋せよ乙女」と歌う姿が眼に焼き付いた。映画が終わるとまわりの観客が立ち上がり拍手しだした。それはこの素晴らしい傑作を作った黒澤明監督に対するスタンディングオベイションだったのだ。今もあの劇場ではクロサワウイークのたびにスタンディングオベイションが起こっているのだろうか。それとも時代の流れで劇場自体がなくなっているかも…。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )