加害者は獄中からH氏に、毎月2~3通ずつひたすら謝罪の手紙を書き続けました。
H氏は最初は怒りに煮えくり返って、手紙を破り捨てていました。
そして逮捕から6年あまり経ち、手紙の数も100通を越えたといいます。
歳月はH氏の気持ちを次第に変えていきました。
加害者は死刑判決を受け、どう転んでも2度と娑婆には戻れない。
鉄格子の中で死を待つだけの存在だ。
その安堵感がH氏に気持ちのゆとりを与えたようです。
ただし、それは加害者が死刑判決を受けているからという前提であり、量刑の重さが被害者遺族に実に微妙な影響を与えるのです。
加害者に心から悔いる感情が生まれるのも、死刑という前提があってこそでしょう。
H氏は加害者に会ってみようという気になっていきます。
そうして、実際に面会してみると、加害者は申し訳なさそうに身を縮こまらせている、ちっぽけな男でした。
“殺人鬼”ではなく、自分と同じ一人の人間だと感じたということです。
憐憫の情も感じ、H氏は複雑な思いにかられました。
「こんな男を殺せなんて、よういえん」
(現在は死刑囚は親族と弁護士以外、外部との交渉を厳しく制限されています。)
それからH氏は、加害者に生きて償いをしてほしいと思うようになるのです。
(参考文献・「されど我、処刑を望まず」)