死刑には、「被害者感情に報いる」という錦の御旗があります。
けれども、「被害者感情」という言葉が一人歩きしてはいないでしょうか。
被害者感情と言っても、怒りや悲しみなど決して一様なものではありません。
確かに、被害者遺族は加害者の死刑を望むことも多いでしょう。
しかし、事件や犯人のことにはもう触れたくないという被害者も少なくなく、
長い間殺意を抱きつづける人はむしろ少ないとも言われます。
一生犯人を憎んで生きる苦しさから免れるために、やがて死刑反対の活動を始める遺族も例外ではありません。
犯人を殺せと声を高めるのは、むしろ第三者の観客です。
当の被害者遺族が加害者を許そうとしても、世間の“被害者感情”がそれを許さないというのは奇妙な現象です。
殺人事件の取材で、「犯人を殺してやりたい」という遺族の言葉だけをもらってくるマスコミにも責任はあるでしょう。
(続く)