一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

橋下弁護士の懲戒請求の呼びかけについて(その2)

2007-09-11 | 法律・裁判・弁護士

先々週のエントリで橋下弁護士の光市母子殺害弁護団への懲戒請求について触れましたが、あいかわらずヒートアップしているようです。

懲戒処分請求4000件超える 光母子殺害のTV発言で
(2007年9月8日(土)16:51 共同通信)

橋下弁護士が改めて弁護団批判 光市事件懲戒請求問題で
(2007年9月5日(水)20:32 朝日新聞)

山口県光市の母子殺害事件の差し戻し控訴審についてのテレビでの発言をめぐり、被告の元少年(26)の弁護団に加わる弁護士4人から損害賠償訴訟を起こされた橋下(はしもと)徹弁護士(大阪弁護士会所属)が5日、都内で記者会見を開き、「法律家として責任をもって発言した」と反論、全面的に争う方針を明らかにした。


ところで、9月1日の判例時報1971号で「弁護士法58条1項に基づく懲戒請求が不法行為を構成する場合」という判例(最高裁平17(受)2126号、平成19年4月24日第三小法定判決)が紹介されていました。
(判決文全文はこちら)

この中で懲戒請求が不法行為を構成する要件として以下の判示がなされています。

同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において,請求者が,そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに,あえて懲戒を請求するなど,懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには,違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。

判例時報の解説によると、従来同種の案件で下級審が準拠していた民事訴訟の提起が不法行為を構成するかについての判例(最三判昭63.1.26)の基準では「通常人であれば容易にそのことを知りえたのに」とされている部分が、本判決では「通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに」と、同じく「著しく相当性を欠く場合に限り」とされている部分が「相当性を欠くと認められるときには」と若干加重されています。

これは、弁護士の懲戒請求権は公益の観点から法律上認められた権利であり憲法上保障された裁判を受ける権利とは異なる(その分要件が加重されている)ことによるとされています。

さらに本判決には田原睦夫裁判官の補足意見があります。その中で

弁護士に対して懲戒請求がなされると,その請求を受けた弁護士会では,綱紀委員会において調査が開始されるが,被請求者たる弁護士は,その請求が全く根拠のないものであっても,それに対する反論や反証活動のために相当なエネルギーを割かれるとともに,たとえ根拠のない懲戒請求であっても,請求がなされた事実が外部に知られた場合には,それにより生じ得る誤解を解くためにも,相当のエネルギーを投じざるを得なくなり,それだけでも相当の負担となる。それに加えて,弁護士会に対して懲戒請求がなされて綱紀委員会の調査に付されると,その日以降,被請求者たる当該弁護士は,その手続が終了するまで,他の弁護士会への登録換え又は登録取消しの請求をすることができないと解されており(平成15年法律第128号による改正前の弁護士法63条1項。現行法では,同62条1項),その結果,その手続が係属している限りは,公務員への転職を希望する弁護士は,他の要件を満たしていても弁護士登録を取り消すことができないことから転職することができず,また,弁護士業務の新たな展開を図るべく,地方にて勤務しあるいは開業している弁護士は,東京や大阪等での勤務や開業を目指し,あるいは大都市から故郷に戻って業務を開始するべく,登録換えを請求することもできないのであって,弁護士の身分に対して重大な制約が課されることとなるのである。
弁護士に対して懲戒請求がなされることにより,上記のとおり被請求者たる弁護士の身分に非常に大きな制約が課され,また被請求者は,その反論のために相当な時間を割くことを強いられるとともに精神的にも大きな負担を生じることになることからして,法廷意見が指摘するとおり,懲戒請求をなす者は,その請求に際して,被請求者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について,調査,検討すべき義務を負うことは当然のことと言わなければならない。
殊に弁護士が自ら懲戒請求者となり,あるいは請求者の代理人等として関与する場合にあっては,根拠のない懲戒請求は,被請求者たる弁護士に多大な負担を課することになることにつき十分な思いを馳せるとともに,弁護士会に認められた懲戒制度は,弁護士自治の根幹を形成するものであって,懲戒請求の濫用は,現在の司法制度の重要な基盤をなす弁護士自治という,個々の弁護士自らの拠って立つ基盤そのものを傷つけることとなりかねないものであることにつき自覚すべきであって,慎重な対応が求められるものというべきである。

補足意見も、弁護士過疎地域問題を意識してか故郷に帰ろうとする弁護士のことまで心配するのはいかがなものかとは思いますが、この判例にてらすと橋下弁護士は「法律家として責任をもって発言した」というのであれば、少なくとも懲戒事由となる「事実上及び法律上裏付ける相当な根拠」について説明した上で懲戒を呼びかけるべきだったのではないか(私としては、そもそも個人的には呼びかけるくらいならとっとと自分で懲戒請求すればよかったんじゃないかと思うのですが)、ということになるのではないでしょうか。


また、もしも橋下弁護士の主張が正しかったとしても、4000件超の懲戒請求というのが現実化した場合に、逆に弁護士会がシュリンクしてしまい、弁護士自治の名の下に懲戒制度へのアクセスをより厳しくするような法改正を求めるようになり、橋下弁護士の行為は結果的に弁護士活動を「市民感覚」から遠ざけることになってしまうような気もします。



じゃあ、おまえの考えはどうなんだ、ということですが。

上告審の差戻判決(参照)では

原判決は,量刑に当たって考慮すべき事実の評価を誤った結果,死刑の選択を回避するに足りる特に酌量すべき事情の存否について審理を尽くすことなく,被告人を無期懲役に処した第1審判決の量刑を是認したものであって,その刑の量定は甚だしく不当であり,これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

などと、(全文を読むともっと厳しいのですが)要するに「死刑に相当するんじゃないか」と言っています。

そうだとすれば、死刑制度の是非を問う動きもあり、そうでなくても人の命を奪うという決定をするのであれば、その前に「言いたいことがあれば言わせよう」(そこで少なくとも死刑を覆すだけの根拠がなければやむをえない)という判断は自然だと思います。

なので、差戻審において検察官も裁判官も弁護側の主張に特に異議を唱えないのではないでしょうか。

確かに被害者の遺族にとっては「ドラえもん」云々というのは聞くに堪えないとは思います。
しかし自分は「真っ当な側」の人間である以上、ここは合法的に人の命を奪うプロセスとして我慢すべきところなのではないかと思います。
加害者に個人的に復讐をしたら自分が罪に問われてしまいますし、加害者が唾棄すべき人物であればあるほどその価値はないはずです。

コメント (4)
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