今でも最も人気のあるアメリカ大統領が第16代大統領エイブラハム・リンカーン。「人民の人民による人民のための政治」で有名な演説、黒人奴隷解放、南北戦争と言ったところで、我々日本人にとっても最も有名なアメリカ大統領の1人である。そんな彼が56歳で凶弾に倒れるまでの数々の立派な業績をまくし立てるのではなく、56年間の人生の内、たった4週間分を殆どの時間を割いて描いたのが今回紹介する映画リンカーン。恐らく本作を観たからと言って、リンカーンは偉いとは多くの人は思えないだろう。
大統領として、夫として、父親としてひたすら苦悩する主人公を描いたストーリーの紹介を。
1865年の1月。リンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)が大統領に再選してから2カ月、4年目に突入した南北戦争は未だに続いており、日々犠牲者が出ることに彼は心を痛めていた。戦争を今のままで終結することはアメリカ南部の黒人奴隷制度を認めることになってしまう。更には彼のかねてからの目的であった奴隷制度撤廃を求めた憲法修正第13条の批准は下院では賛成派の議員の数が足りずに、今のままでは可決されないことは明白だった。そこでリンカーンは憲法修正第13条の批准を可決するために議会工作に乗り出す・・・
南北戦争終結と奴隷制度撤廃という2つの理念を果たそうとしても、アッチを立てれば、コッチが立たず。リンカーンは大統領として悩みまくる。しかも、妻のメアリー(サリー・フィールド)は精神病気味で何かと旦那の自分に憂さを晴らしてきたり、息子で長男のロバート(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が自分も兵隊に応募したがる等、家庭でも悩みを抱える。
しかし、そこで立ち止まらないのがリンカーンの凄いところ。目的遂行のためなら反対派議員に対して賄賂、脅迫、そして仲間にも嘘をつく。この辺りの経緯はリンカーンを美化され過ぎたイメージを持っている者が見ていると、けっこう驚いてしまう。ダーティーな部分も描いているが、政治家というのは品行方正なだけでは務まらず、清濁併せ吞むぐらいの人間でなくては務まらないことを本作から学べる。一国のリーダーなら尚更少しぐらいはダーティーな部分を持たなければやっていけないのだ。まあ、俺なんかでは政治家は無理だと気づかされた。
ちなみに本作が公開された時のアメリカ大統領は初の黒人であるバラク・オバマ。そのような時代背景を考えると、なぜこのタイミングで本作が公開されたかを考えてしまいそうになる。画面は暗く、けっこうな登場人物が出てきて、理解に苦しむところも出てくる。そして2時間半の長時間の部類に入る映画。少々面白さに欠ける面はあるが、リーダーの資質ぐらいは本作を観れば少しぐらい理解できる気分になれる。そんな訳で今回は映画リンカーンをお勧めに挙げておこう
監督は今や最も偉大な映画監督であるスティーヴン・スピルバーグ。サスペンス、アドヴェンチャー、人間ドラマ、社会派作品と幅広い分野の映画を撮り続け、ヒットをかっ飛ばす。あえて1本だけお勧めを挙げるとしたら、本作と共通のテーマが含まれるアミスタッドを勧める
賛成数を増やすのもここまでしなきゃいけないとは...
そう簡単にはいかないものですね。
トミー・リー・ジョーンズをはじめ豪華キャストで見応えある作品でした。