新発売の うどんが入荷された
こしがあって、なかなか美味しいと、梅子さんと末永さんは言う。
そんな二人の意見を聞いていた西村チーフは、私に 食べたことがあるか?と聞いた。
いいえ、ありません、と答えると、
「そうだ!鈴木さん、賞味期限が今日までのが2つあるから、持って帰って食べてみますか?」
「えっ?でも、いいんですか?」
「お客さんに尋ねられても、食べてみないことには、分からないですからね。ここの冷蔵庫に入れておきますから、帰りに持って帰って下さい」
そして、帰りのバスの中・・・。
私は、たいてい、一日をバスの中で、振り返る。
「あ~しまった!うどんを持って帰るの、忘れてたあ~」
この日も、思い出したのは、バスの中だった・・・。
そして、翌日。
西村チーフの顔を見るなり、私は昨日のことを誤った。
「昨日は、うどんを持って帰るの、すっかり忘れてて、ごめんなさい。せっかくのご好意を・・・。うどんは、廃棄に・・・?」
そんなに心配しなくても・・・という風に、西村チーフは、さわやかに言った。
「いや、俺の腹の中に、おさまりました。」
チーフの腹の中・・・?
「それは、良かった」
ほっと しつつ、思わずつぶやいた。
無駄にしなくて。(うどんも、西村チーフのご好意も)
「それじゃ、今日、持って帰りますか?」
と、チーフ。
「いいんですか?それじゃ・・・。私、すぐ、忘れるから、帰りに言って下さい」
そして、帰り・・・。
今日は、矢木さんと同じシフトで仕事だった。
「西村チーフが帰りに うどんをくれるって言ってたから、チーフを探してきますね~」
私はルンルン気分でバックから売り場へ行った。
チーフは売り場の ほぼ中央で、補充をしている最中だった。 「お疲れ様でしたあ~」
と、私。
「はい、お疲れ様」
と、チーフ。
西村チーフが うどんの事を忘れている筈がない、と思い込んでいた私は、何も言 わずに、チーフの目の前に、右手を差し出した。
お頂戴、うどんのつもりである。
ところが、チーフの反応は、
「ええっ」
と、目いっぱい驚いた様子で、 そのまま卒倒し、積み上げかけたお菓子と共に崩れそうになったのだ。
今度は、こちらが驚いた。
「あの・・・。催促して悪いんですけど、うどん、もらえますか?」
「あっ、ああ。 うどん・・・ですね」
西村チーフは やっと正気に戻り、売り場から、うどん2つを私に手渡した。
「この内、一つを矢木さんに あげてもいいですよね」
「ああ、そうか。俺、矢木さんに あげてなかったな。でも、一つでいいんですか?」
「は~い!いいです!」
矢木さんと二人、仲良く うどんを一つずつ持って、休憩室へ上がった。
「なんか、店から盗んだみたいね~」
と、笑いながら・・・。
休憩室では、私の面接をした人事課の 課長がタバコを吸っていた。
「鈴木さん、こんにちは。もう、慣れましたか?」
と、笑顔である。
「はい、いい人ばかりで。それが、一番です」
そう言いながらも私は、自分の手に持っていた、うどんが気になって仕方なかったのだけれど・・・。(苦笑)
矢木さんは、
「いい人ばかり・・・って言ってくれて おばちゃん達に、鍛え上げられてますって、言わなかったんだ」
といい、笑っていた。
そして今日。
矢木さんは、私に早速うどんの感想を述べた。
「鈴木さん、昨日もらった うどん、食べてみた?こしがあって、おいしかったねえ。私、こしがあるほうが、好きなんよ。これ、店頭販売とかで宣伝したら、売れると思うよ」
はい、同感。ホント、おいしかったです。
それにしても、チーフの昨日の あの反応、何だったんだろう。
今にして思うと・・・。
私が黙って手を差し出したから、
「手を握って!」
と、言う意味だとでも勘違いしたとか。
まさかね~
いくらなんでも、店の ど真ん中で、10歳くらい年下のチーフを軟派するようなマネ、わたくし、しませんことよ~。
何はともあれ、うどん、美味しかったです。
また、くださいっ。