ついに、ワオンがグランドオープンした。
私は遅番で、午後出勤。
予想はしていたが、店内は、お通夜のように、し~ん・・・と静まり返っている。
「暇だね・・・。お菓子の補充しようかと思ったけど・・・。2、3つしか減ってないな」
高田さんは言う。
そういわれて、私は あらためて周囲を見渡した。
杖をつきながら、お店をゆっくり歩く老人や、腰をくの字に曲げて、カートを押していく老女の姿が数人見える。
今日、ここへ来ているのは・・・ つまり、自家用車を持っていないか、わざわざバス
に乗って遠くまで出かけられないお客様・・・ということだ
そんな時、缶詰めコーナーで、お客様に声を掛けられた。
「あの・・・お忙しいところ、恐れ入りますが・・・。缶詰めに入った ゆで小豆は何処にあるんでしょうか?」
こんなときに、ワオンの超特大チラシを無視して、わざわざ当店へ足を運んで下さる お客様こそ、大事にせねば
私は、いつもにも増して、接客に力が入る。
「ゆで小豆は、缶詰めコーナーではなく、売り場中央のホットケーキや手作りケーキコーナーに置いてあるんですよ。分かりにくい所ですからね・・・。ご案内致します」
「まあ、ご親切に。すみませんねえ、お忙しいのに・・・」
お客様は、一番隅っこにある缶詰めコーナーから売り場中央のケーキコーナーへたどり着くまでの間、
「すみませんねえ」
と、3,4回も繰り返した。
3,4回だよ!3、4回。
なんて腰の低い謙虚なご婦人なのだろう。
私も、このように年を重ねたいものだ。
一度目は、
「大丈夫ですよ」
二度目は、
「分かりにくいですしね、説明するよりご案内した方が早いので・・・」
三度目は、
「気になさらないで下さい」
そして、遂に四度目には、つい、ポロッと本音が出た。
「いいんです。暇ですから」
今日は、品出しをしながら、いつもにも増して、お客様をゆっくりご案内したのであった。
ここで働きだす前に老人介護施設で過ごした日々が、ふと頭をよぎった。
あの時に得た知識と体験が当店でも、役に立ちそうである。
バックへ行くと、なぜか、店長が私服で来ており、ダッシュで風のようにかけて行った。
あれ?
今日は、休みじゃなかったっけな?
通夜の翌日は、葬式か?と店のことが心配で、様子を見にきたのだろうか?
今日は、ずっとダッシュで通路を駆け抜けるので、声を掛ける暇もない。
傍目には、短距離走の練習を始めたのかと、思うだろう。
そういえば、車椅子が店内用に入荷されたとき、店長は今日のように、車椅子に乗って、バックの通路を何往復もしていたっけ・・・。
「店長、乗り心地は どうですか?」
と、岸辺さんが尋ねると、周囲にいたスタッフは、クスクス
「俺は遊んでるんじゃありません お客様が怪我をしないように、まずは試運転をして、確かめているのですっ
」
お~っ。ごもっとも。 今日も、店長は、緊急事態に備え、走りこみをしているのだろう。
再び売り場へ行くと、 高田さんは言った。
「最初の珍しい間だけよ。客がワオンへ押し寄せるのは。その内、みんな、ここへ戻ってくる。老人は毎日ワオンへ通えないからね!」
私は、訪問介護師の資格を持ってます。
店長は車椅子の使い方を習得し、 走り込みをしてお客様のお越しを待っております。
高齢者のお客様、どうそ、当店へ