岸辺さんと午後出勤。
二人で更衣室から出て、階段を下りようとしている時、 一人の男性社員が私達の前を横切り、一階へ降りて行くのが見えた。
なんと、彼の名札には、「花園」と、書かれてあった。
花園さんが二人いなければ、きっと、あの方が乾物のバイヤーだわ。
実は わたくし、まだ一度もバイヤーの花園課長にお会いした事がないのだ!
今、売り場にいるなら、チャンスである。
商品を前にした方が質問もしやすい。
バックへ行くと、店長がいた。
「こんにちは。先ほど、花園バイヤーが、ここへ来られませんでしたか?」
「いや。見かけてないけど」
「もし、売り場にいらっしゃるなら、二、三、お聞きしたい事があるんです」
「今?」
「はい。もし、一階に居るなら・・・ですけど」
店長は、さっと携帯電話を取り出した。
「もしもし、今、どちらに おられますか? スタッフが売り場で お見かけしたと話していたもので・・・。 今日、一階へ降りてくる予定はありますか? 乾物の担当者が、二、三、お聞きしたい事があるそうで・・・はい、6時までおりますので」
店長は電話を切ると、私の方へ向きなおした。
「今から会議があるそうです。後ほど・・・(以下、略)」
私って、すごい?
ヒドイ?
初対面の課長を聞きたい事があるからと、わざわざ売り場へ呼び付けてしまった。
そして、5時半。
岸辺さんと豆腐の値引きをしていると、不意に、店長が私を呼ぶ声がした。
「鈴木さん!」
振り向くと、店長の真横に乾物のバイヤー、花園課長が立っていたのである。
急だったので?私は一瞬、焦った。
「お疲れ様です。鈴木と言います。宜しくお願い致します」
簡単に自己紹介し、海苔売り場へ急いだ。
花園課長は、一つ一つの質問に丁寧にお答えして下さり、即答できない件については、取引先に問い合わせ、確認して下さった。
結局、二度も、売り場へ足を運ばせたことになる。
入荷されなかった商品については、早急に入荷するよう手配してくださった。
感謝、感激である。
すべての質問に答えられるという南副店長の言葉は正しかった。
しかし、 まじめそうな課長を目の前にして、いきなり、
「何故、Typhoonというのか」
といったような質問は出来なかった。
この手の質問は、やはり、南副店長の専門だからね。
そのまた翌日・・・。
南副店長の方から私に聞いてきた。
「有明の海苔は、結局どうだったんですか?」
「終売だそうです。商品差し替えで、販売通知がくるそうです」
「了解」
電話して「発注したけど、入ってこんのよお~・・・とは言いませんでしたが、 もっとすごい事をしてしまいました。
なんと、
「聞きたい事があるから、売り場へ降りて来い!」
って、 課長を呼びつけたんです。
面識がないというのに。
上司なのに・・。 南副店長の想像を超えてましたね。