時代(とき)は2006年9月。
場所は、とあるスーパーさくら通り店。
ここで働き始めて2ヶ月が経過した頃だった。
9月といえば、九州では特に大型台風に襲われる時期である。
この年も例のごとく、台風がやってきた。
「夜間バイトの**君、JRが止まって出勤不可能だから、休むって連絡があったから」
電話を切った店長は、心配そうに外を眺めた。
「鈴木さん、帰れなくなるよ!今日は早めに退社したほうがいいよ。私が送ろうか?」
ひらっちが心配そうに言う。
「大丈夫よ。今、雨も止んでるし」
末永さんは、思い出したように、台風にまつわるエピソードをしてくれた。
「去年の台風の時、私、朝一番に店長に電話して、『台風だから、休みます!』って言ったよ。休んでもいいですか?じゃなくて、休みます!ぎゃははあ~」
この日は結局、ずぶぬれになりながらも、無事、帰宅できた。
その数日後・・・。
9月といえば、もう一つ、台風並みに・・・いや、それ以上に話題になる大切なことがある。
プレーオフ
福岡ソフトバンクホークス
私の幼なじみは、
「ホークスの応援歌、若鷹軍団を聴いたら、故郷に帰ってきたア~って思うよ」
と、言っていたっけ。
この時期は、どこのスーパー、デパートでも若鷹軍団の曲が流れているのが福岡の街だ。
この日のプレーオフは、午後試合開始。
私の勤務は、午後からだった・・・。
な・・・なんでえ~!
職場に着いた私は、店長室を覗き込み、副店長に申し上げた。
「私、今日、働く気分じゃないんですけど。 プレーオフが始まってるし。帰りたいんですけど・・?」
半分ジョークぅ、半分本気な私だったが、南副店長は、真面目な顔で、つっ立ったままだ。
今度は西村チーフに会った。
「ホークスのプレーオフみたいから、お休みしますって職場に電話したら、 懲戒解雇ですよね? 台風じゃなくて・・・プレーオフ」
机で物書きをしていた西村チーフは、いったん手を休め、数秒間、考えた。
「そう・・・ですねえ」
「試合・・・どうなってるんでしょう?」
「ああ、それは、カト君に聞いて下さい」
仕事をしながら、バックへ行くたびに、情報交換をする。
休憩中のスタッフは、携帯でチェックできるのだ
私は、持ってないけれど・・・世の中、便利になったものだ。
「鈴木さん、野球好きですか?」
カトちゃんの質問に、
「はいっ 好きですっ 」
と、一歩踏み込んで答えた。
傍目には、私がカトちゃんに、愛の告白をしているように見えたかもしれない。
精肉のペコちゃんが私に話かけてきた。
「今、5点目がホークスに入ったよ!」
仕事中も落ちつかないのは、皆同じ。
バックへ行くと、カトちゃんが興奮状態だった。
「鈴木さん、今、5点目が・・・いや、6点目が入ったあ 松中が打ちましたよ!9回だから、勝利は、いただき・・・」
この日は、ホークスの勝利で、いよいよ後一試合を残すのみ・・・。
これに勝利して、三度目の正直で、パリーグ優勝だあ~。
と、意気込んだ。
これもカトちゃんの実況中継のお陰。
ところが翌日・・・。
負けた。
大村もズレータも、セーフにしか見えなかった。
審判の判定はアウト・・・。
最後も微妙なタイミング。
翌日、会ったカトちゃんは、げっそりと痩せていた。
「一度ならず、二度も変な判定で・・・。最後の瞬間、 僕、南副店長の車の中で泣きましたよ!」
カトちゃんは、夜まで仕事だった為、南副店長の車に備えつけられたテレビで最後の試合を 仕事終了後、観戦したそうだ。
南副店長と・・・?
彼は、全く興味なさそうだったが?
上司という立場上、仕事中に興味を示せないのだろう。
ヒーローインタビューの時、男泣きした松中選手。
プレーオフ敗退が決まった瞬間、同じく男泣きしたカトちゃん。
二人共、かっこいい
小久保も戻ってきた!
2007年こそは・・・。
常勝チーム、福岡ソフトバンクホークスの優勝だあ。
とあるスーパーのスタッフ一同、ホークスを応援します