「恩田さ~ん!」
青島店長は、にこにこと、今にもスキップし出すんじゃないかと
思われるほど、陽気な感じで、補充中の私・・・恩田すみれの側までやって来た。
「あのねえ、これ・・・」
坦々麺の前で止まった青島店長が何か言おうとしているのを
さえぎり、私は坦々麺を一つバガッツ!!と掴むと、
店長の前に差し出した。
「 これ・・・でしょ!?」
青島店長は、一歩後ずさり、
「あっ・・・・ もしかして、聞こえてた??」
「はい。しっかりと!!聞こえてました!」
「・・・・・」
お店の中央で、あんなに大声で叫ばれたら、
誰にだって聞こうと思わなくても、聞こえてしまう。
お客さまも、
「へえ~、この店、人気商品をしょっちゅう品切れさせてるんだあ」
と、思っただろう。
社員があんなことを店の中央で選挙カーのごとく、
堂々と叫んでいると、
お客様への印象も良くない。
室井課長には、
「君、明日から早速、市長選挙の 宣伝カー に乗りなさい!」
と助言してあげたいくらいだ。
とあるスーパーが推している、あの人の右腕になるべきである。
さて・・・。
坦々麺で いっぱいになった棚を眺めながら、笑顔の青島店長に、
私は言った。
「さっき、二人に聞いてみたんですけど、
二人共、これが欠品してるの、見たこと無いって・・・。
私が担当になってから半年ですが、一度だけ、ありました。
でも、しょっちゅう・・・じゃ、ありません!
半年に一度の頻度を しょっちゅうって、
言うんですか!?」
・・・と、私が言った次の瞬間、
「 (^0^)(^0^)(^0^)ぎゃはははは~~~~~っ!!!」
「・・・・?? 」
(えっ・・・!?!?)
なっ・・・なんと、青島店長は、たちの悪い、笑い薬を飲まされたんじゃないか!?と、疑いたくなるほど、げらげらと、笑い転げた。
笑いが収まらない様子の店長に、私はいった。
「あんな言い方、ひどすぎます・・・」
私は もはや、泣いているのか、怒っているのか分からない状態になった。
「うんうん・・・。バックに在庫はあっても、たまたま補充してなかったって事だと思うよ」
店長が言うことは、思い当たる。
「あっ、それは有り得ます。今朝も、どんべえ肉うどんが棚には一つも無かったし・・・。在庫はバックに5ケースもあるのに・・・」
御店の営業時間は長い。
しかし、スタッフは一日中、店に居るわけではない。
半日も空けば、動きが早いカップラーメンの棚は、穴だらけになるし、
休みが一日はいれば、棚はカラっぽだ。補充しなければ!
「いろんなこと、言う人が居るからね。
あんまり、気にしなくていいよ。
いちいち気にしてたら、やっていけんよ。」
店長は、(笑いながら!!)そういって私を慰めると、
あらためて、坦々麺の棚を眺めた。
「フェイス (定番商品の棚の広さを) 広げとってやろうかねえ・・・」
店長は、今、尚、笑いが収まらない様子で、
再び可笑しそうに笑い出した。
結局、笑いながらバックへ去って行ったのである!
店長が あんなに声を出して、げらげらと笑い転げるなんて・・・。
初めて見た!
それにしても・・・。
「半年に一度の頻度をしょっちゅうって言うんですか!?」
とは、店長に向って、よくも堂々と言えたものである。
ここは、日本の職場なのに・・・。
しょっちゅう、というのは、せめて、風呂好きの日本人が
銭湯か温泉へ行くほどの頻度の事を言ってほしいものだ。
(ちなみに私は月に一度だ)
或は、免許取り立てドライバーが一度で車庫入れを成功させる確率とか。
真下副店長が言うように、
日本で普通に日常生活を送っていて、
「あっ!馬だっ!!」
又は、オーストラリアで
「あっ!カンガルーだ!」
と、馬やカンガルーをお見かけするほどの頻度の事を
しょっちゅう・・・と定義するのは、お願いだから、
やめて!
ちなみに、いくら、カンガルーの国、オーストラリアでも、
街中で お見かけすることは、さすがにありません。
田舎への一本道を車で走っていると、
時々、交通事故であの世へ行ってしまったカンガルーをお見かけする程度。こうした遠出ドライブは、私の場合、半年に一度だけだった。
もう、お分かり頂けただろうか。
この頻度は、やはり、しょっちゅうとは言わないのである。
店長は、大人の対応をした。
「フェイスを広げて・・・」
これも、冗談だろう。
しかし、私は このままでは気がすまない。
フェイスをただ、広げたくらいでは・・・。
その時、あるグッドアイデアが浮かんだ。
そうだっ! これしか、ない!
ふっふっふ・・・・。
店長のゲラゲラ笑いとは対照的に、
不気味な笑みを浮かべる恩田すみれだった・・・。
続く・・・。