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上遠野敏さんの東京・青森(1) 大竹伸朗展 

2006年10月19日 00時11分54秒 | 読者からの投稿
 札幌の現代美術作家、上遠野(かとおの)敏さんから、東京と青森の美術展めぐりをしてきたことについて、投稿がとどきました。
 6回に分けて掲載します。

●東京都現代美術館
「大竹伸朗 全景1955-2006」 (2006.10.14~12.24)

 現代美術を代表する作家「大竹伸朗」が少年期から現代までの作品を引っさげて、現代美術の牙城でベールを脱いだ。作品は2000点。札幌芸術の森美術館展示フロアーの5倍くらいはあるでしょうか。(2万点とも3万点とも言われている作品群から厳選。本人を始め関係者の苦労がうかがえる)一人の作品量とは思えない圧倒的な量と質で、改めて造形の持っている力に感動しました。

○まず「宇和島駅」のネオンサインがお迎え。エントランスではワニの「イチロウ」(メタ・アルビノ)と宙づりの「網膜」(零景)が回転しながらギターを
かき鳴らしワクワク感を盛り上げてくれます。

○入場すると濃厚な「スクラップ64冊」が美しく鎮座。場所、時間、思考、行為などがぎっしりとそれぞれの厚みとなって強烈な一撃を喰らわされます。大竹作品の源として、これだけでも見る価値が十分。

○「小学校から大学受験までの作品」。
子どもの作品を見せるほどのお目出たい作家ではない、既に独自な造形言語を有している出発点を確認したかったのであろう。中学で作った、笑う顔面、足付きの彫刻などは、シュワンクマイエルばりの作品で非凡な才能を発揮しているプロ並み。受験期の作品はやはり苦しいが、そんな中でもダイアン・アーバスの写真を絵にするなどの作品は高校生にして既に優れた嗅覚と言えるだろう。

○自己の存在を確かめる「別海時代」の写真とスケッチ。
これは別海の「ウルリ-牧場」(10.8~12.25)と道立近代美術館での「FIX MIX MAX展」(10/10~10/19)でもご覧になれます。無給、無休で牛の糞だしをしながら何をみつめたのか、3ヶ所の会場で軌跡をたどるのもいいのでは。

○貼り込みやノイズの目覚め「ロンドン時代」
マッチのラベルの出会いや収集物との出会いをはじめ、ラッセル・ミルズやホックニーとの出会いなど大きな収穫があった。

○「デビューまで実験時代」紙でつくったボブ・ディランの彫刻やラッセル・ミルズやマックス・エルンストを思わせるコラージュ、ギターや靴箱のボール紙の絵画、版画、ノイズバンドなどの実験が大竹表現の礎となっている。

○ワタリやロンドンICAでの「デビュー時代」
世界の潮流、ニューペインティングの寵児として注目された。
アーティストブック「倫敦/香港」がADC最高賞

○伝説の展覧会「佐賀町エキジビットスペース」1987
画廊とのトラブルから3年間の沈黙を破っての展覧会。「東京-京都」、「ラビュシュマン」「ベルリン」「サンチャゴ」などで名声を高めた。当時の若者から絶大な支持を集め、その後活躍する村上隆などを輩出する母胎とも言える伝説の展覧会。この時代はひとつの頂点としてご覧頂きたいです。ふきのとうのように大地に出てきたようなエネルギーが溢れでています。

○「アメリカ シリーズ」
アメリカの基金の招聘での制作された作品。どこでも移動可能なように綿布を丸めてられるように工夫。オールオーバーな色面やしみ、胞子を思わせる線描などの作品。

○「シップヤードワークス」
宇和島に拠点を移したこともあり、漁船や造船のFRPなどを使った作品群が登場。作らずに創る極意は廃漁船を使った西武アートフォーラムでの「フィシャマンズ・ヘッド」や「漁船窓」「家系図」など、寺田倉庫でのFRPの「隔壁」「船尾と穴」などモノが大きいだけに圧倒的な迫力。
素材との出会い、造船所との出会いが嬉しさとなって作品から喜び溢れています。

○「網膜シリーズ:写真&平面」
写真撮影の際、カメラマンがゴミ箱に捨てたポラを拾い上げ、カラー印画紙に引き延ばしてテープやインク、透明プラスチックで絵画とした作品。この作品に強いショックを受けたことを、今でも残るプラスチック臭が呼び起こしてくれました。

○「立体コラージュ:網膜」
都築響一(「TOKYO STYLE」「珍日本紀行」でお馴染み)とモロッコ旅行。コラージュ魂に発火。箱型の立体にここまで貼れるかって所まで貼った「網膜:ニュートン オブタンジェ」ほか、すざましいエネルギーの放出。

○「モロッコ:カスバの男」
モロッコの取材で生まれた色鉛筆のスケッチ群。色彩感覚が豊で絵がやはり上手い。「カスバの男」は紀行文。

○「絵本:ジャリおじさん」
名作絵本。原画と副産物の絵画。素早い筆致で描かれた顔の連作などは、絵と言うものの良さが最大に引き出されて傑作。家族の肖像も見もの。

○「インクジェットの力 Printing/Painting」
福島県須賀川の現代グラフィックセンターでのイングジェット絵画。コラージュの元ネタをインクジェットでキャンバスに拡大印刷したものを魅力あふれる絵画に作り変えた。このような機会を大竹は鋭敏な感覚で表現をものにしている。

○「既景」
すでにそこにあるものから、インスプレーションを受けて制作された作品群。
これは日本景へとシフトして行く。「ちえりあ」に設置された18点の組替え可能の絵画(鹿の絵)「既景/6402兆3737億572万8000分の1」はこれにあたる。「ちえりあ」緞帳ともに今回出品されています。

○「日本景」
雑誌の取材で日本各地をめぐり、絵描きが見向きもしない絵にならないものを大竹の目で見いだされて、「日本景」として絵画、ネオン作品など広範囲に新たな価値感を作り出した。2000年に「ちえりあ」に設置された緞帳「北の空に浮かぶカタチ
」も展示され、燦然とその美しさを示しております。札幌市の英断を讃えたい。

○「パズルパンクス」
関西のノイズ系アーティスト:ヤマタカアイとのユニット。CDや作品集がつくられた。

○「ダブ平&ニューシャネル(独自の演奏システム)」
ギター、ベース、ドラム、DJタウンテーブル、カラオケ、照明などが遠隔操作で演奏出来るステージセット。ヤマタカアイとのライブはいつも大盛況である。今回は11/27に行われます(予約:チケットぴあ)。1999年時代の体温(世田谷美術館)、2000年大阪キリン、そして今回と益々バージョンアップしています。早くロンドンとかに持って行って世界をあっと言わしたいものである。

○「鼠景(マウス景)」
エプサイトの協力で絵筆をマウスとペンタブレットに持ち替え制作したインクジェットの作品群。バーチャルを超えて創造は力であることが証明されたのがこの作品群である。

○他に「ビルディング」「釣船」「新作」「本」など
最新作は巨大な「女神の自由」が吹き抜けのロビーに鎮座して女神の自由を謳歌しています。

やはり大竹伸朗は抜群でした。横綱登場。村上隆や奈良美智の台頭で沈黙をしていた大竹が露払い宜しく登場した感があります。海外の美術館等でみる巨匠の作品と同じような品格と崇高さを作品が語っておりました。東京まで行って観る価値があります。皆様も是非に。

■関連資料
「大竹伸朗 全景1955-2006」11月下旬刊行予定。会場価格6,300円
会場で予約できます。送料、別途1.000円
展覧会の全作品やテキストなど貴重な資料といえる。他に関連本は多数ありました。

(写真は、東京都現代美術夜景 宇和島駅のネオンと「ちえりあ」の緞帳)


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