戦後の陶芸史をぬりかえた前衛集団「走泥社」のメンバーだった川上力三さん(京都、1935-)、道内を代表する彫刻家の阿部典英さん(札幌、1939-)、パワフルなオブジェを精力的に制作している下沢敏也さん(札幌、1960-)の初の3人展。非常に見ごたえのある空間が現出しています。造形的にはもちろんですし、人の生と死を考えさせる重みがあると思います。
この展覧会のきっかけは、関西方面で精力的に発表してきた下沢さんが、2005年に伊丹市立工芸センター(伊丹国際クラフト展の会場でもあります)で個展をひらいた際、たまたま同時期に同センターで川上さんが個展をひらいていて知り合いになり、川上さんが
「北海道でもやりたい」
と言ったことだそうです。
道内での陶芸展といえば、95%は生活雑器や花器がメーンで、オブジェを制作している人はあまり多くありません。道外の陶芸作家の、うつわ以外の作品が紹介されることは、きわめてまれです。
これは貴重な機会だと思った下沢さんが企画し、「北海道立体表現展」でいっしょに発表した阿部さんをさそって3人展としたのが、今回の展覧会なのです。
「陶2+彫刻1」
「道内2+道外1」
「1930年代生まれ2+60年代生まれ1」
3人による会場構成も、すっきりしたものになっていました。
まずは川上さんです。
筆者が会場を訪れた際は、函館に行っており、不在でした。
はじめて拝見しましたが、いずれもシンプルで、重厚さに満ちた作品でした。
上の画像は、左と右が「風の門」、中央は「遠い道」です。
あまりむつかしい理屈はいらないと思います。人生というか、人間の生の深遠さ、はるかさを、静謐な表現のうちに提示しているように感じました。
「遠い道」は、右端がギザギザのままなのが、作品にふくらみを与えていると思います。
右の「風の門」は永遠性をただよわせています。
戦争、阪神大震災をくぐりぬけてきた作者の祈りのようなものが、簡素なかたちのなかに折りたたまれているようです。
奥は「環相『宙』」、手前は「環相・位相」。
「位相」のほうは、半分に切ったドーナツ形で、台の上に金属板を置いて反射させ、まるく見せています。
「宙」は、本焼きの前に表面にグラインダーで傷をつけ、さまざまな着彩をほどこしています。
いずれも、漆黒の宇宙を思わせる黒い色は、釉薬をかけたのではなく、焼く際に松脂をまぜて着けたものだそうです。
つぎは阿部さん。
出品はインスタレーション「ネェ ダンナサン あるいは 死・生」1点だけです。
祭壇を思わせます。軽快さと重厚な精神性とが同居しているかのような印象を受けます。
それぞれの立体は木彫がメーンです。
画家の丹野信吾さんやグラフィックデザイナーの梅津恒見さんといった友人の死は阿部さんに大きなショックをあたえたようです。作品も、人間の死と生とはなにかを問う深い思いを感じさせます。
阿部さんによると、当初は「囚われの石」といった題を考えていたとのこと。
手前左の石は、朝里海岸(小樽)で拾ってきた石に、メッキした金属板をまきつけたもの。
(それにしても、石を拾いに行ったところが朝里であることに或る種の感慨を覚えます。2003年に芸術の森美術館でひらかれた個展のときにあらためて知ったのですが、阿部さんは生まれは札幌ながら、戦中に疎開していた後志管内島牧の体験が原点になっているというのです。石狩や苫小牧ではなく、すこしでも島牧に近いほうの海に行くんだなあ)
左奥の三角形なんて「位牌みたいでしょう」と阿部さん。
そして、中央の木彫は、白い羽根を持った天使のようです。
生にたいする心からの肯定を感じさせる阿部さんのインスタレーションに影を落とす死というもの。
陰影の深まりが、作品をいっそう際立たせています。
最後は下沢さん。
といっても、年齢順で紹介したまでで、下沢さんのインスタレーションが入り口の近くに展示してあったのですが。
「RE-BIRTH -風化から再生-」
と題された作品は、12本の柱からなっています。
おそらく素焼きだと思います。ひび割れ、焦げ、縮れ、しかしそれでもすっくと立ち続ける姿は、土という身近な、しかしふだんあまり考えることのない素材について、見る者に思いを促します。
きわめてシンプルながら、強い存在感をもって迫ってくる作品です。
07年7月21日(土)-29日(日)10:00-18:00(最終日-17:00)
コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階 地図C)
■WAVE NOW 06(阿部さんが参加)
■阿部典英個展(2002年)
■北方圏美術展(2002年、阿部さんが参加)
□下沢さんのサイト
■07年4月の個展
■田村陽子さんとの2人展(07年1-2月)
■下沢トシヤ陶展(06年12月)
■西本久子さんとの2人展(06年1月)
■下沢トシヤ陶展(04年6月)
■北海道立体表現展(03年)
■下澤敏也・多田昌代2人展(03年、画像なし)
■下澤敏也・多田昌代2人展(02年、画像なし)
この展覧会のきっかけは、関西方面で精力的に発表してきた下沢さんが、2005年に伊丹市立工芸センター(伊丹国際クラフト展の会場でもあります)で個展をひらいた際、たまたま同時期に同センターで川上さんが個展をひらいていて知り合いになり、川上さんが
「北海道でもやりたい」
と言ったことだそうです。
道内での陶芸展といえば、95%は生活雑器や花器がメーンで、オブジェを制作している人はあまり多くありません。道外の陶芸作家の、うつわ以外の作品が紹介されることは、きわめてまれです。
これは貴重な機会だと思った下沢さんが企画し、「北海道立体表現展」でいっしょに発表した阿部さんをさそって3人展としたのが、今回の展覧会なのです。
「陶2+彫刻1」
「道内2+道外1」
「1930年代生まれ2+60年代生まれ1」
3人による会場構成も、すっきりしたものになっていました。
まずは川上さんです。
筆者が会場を訪れた際は、函館に行っており、不在でした。
はじめて拝見しましたが、いずれもシンプルで、重厚さに満ちた作品でした。
上の画像は、左と右が「風の門」、中央は「遠い道」です。
あまりむつかしい理屈はいらないと思います。人生というか、人間の生の深遠さ、はるかさを、静謐な表現のうちに提示しているように感じました。
「遠い道」は、右端がギザギザのままなのが、作品にふくらみを与えていると思います。
右の「風の門」は永遠性をただよわせています。
戦争、阪神大震災をくぐりぬけてきた作者の祈りのようなものが、簡素なかたちのなかに折りたたまれているようです。
奥は「環相『宙』」、手前は「環相・位相」。
「位相」のほうは、半分に切ったドーナツ形で、台の上に金属板を置いて反射させ、まるく見せています。
「宙」は、本焼きの前に表面にグラインダーで傷をつけ、さまざまな着彩をほどこしています。
いずれも、漆黒の宇宙を思わせる黒い色は、釉薬をかけたのではなく、焼く際に松脂をまぜて着けたものだそうです。
つぎは阿部さん。
出品はインスタレーション「ネェ ダンナサン あるいは 死・生」1点だけです。
祭壇を思わせます。軽快さと重厚な精神性とが同居しているかのような印象を受けます。
それぞれの立体は木彫がメーンです。
画家の丹野信吾さんやグラフィックデザイナーの梅津恒見さんといった友人の死は阿部さんに大きなショックをあたえたようです。作品も、人間の死と生とはなにかを問う深い思いを感じさせます。
阿部さんによると、当初は「囚われの石」といった題を考えていたとのこと。
手前左の石は、朝里海岸(小樽)で拾ってきた石に、メッキした金属板をまきつけたもの。
(それにしても、石を拾いに行ったところが朝里であることに或る種の感慨を覚えます。2003年に芸術の森美術館でひらかれた個展のときにあらためて知ったのですが、阿部さんは生まれは札幌ながら、戦中に疎開していた後志管内島牧の体験が原点になっているというのです。石狩や苫小牧ではなく、すこしでも島牧に近いほうの海に行くんだなあ)
左奥の三角形なんて「位牌みたいでしょう」と阿部さん。
そして、中央の木彫は、白い羽根を持った天使のようです。
生にたいする心からの肯定を感じさせる阿部さんのインスタレーションに影を落とす死というもの。
陰影の深まりが、作品をいっそう際立たせています。
最後は下沢さん。
といっても、年齢順で紹介したまでで、下沢さんのインスタレーションが入り口の近くに展示してあったのですが。
「RE-BIRTH -風化から再生-」
と題された作品は、12本の柱からなっています。
おそらく素焼きだと思います。ひび割れ、焦げ、縮れ、しかしそれでもすっくと立ち続ける姿は、土という身近な、しかしふだんあまり考えることのない素材について、見る者に思いを促します。
きわめてシンプルながら、強い存在感をもって迫ってくる作品です。
07年7月21日(土)-29日(日)10:00-18:00(最終日-17:00)
コンチネンタルギャラリー(中央区南1西11、コンチネンタルビル地下1階 地図C)
■WAVE NOW 06(阿部さんが参加)
■阿部典英個展(2002年)
■北方圏美術展(2002年、阿部さんが参加)
□下沢さんのサイト
■07年4月の個展
■田村陽子さんとの2人展(07年1-2月)
■下沢トシヤ陶展(06年12月)
■西本久子さんとの2人展(06年1月)
■下沢トシヤ陶展(04年6月)
■北海道立体表現展(03年)
■下澤敏也・多田昌代2人展(03年、画像なし)
■下澤敏也・多田昌代2人展(02年、画像なし)