昨年10月に大動脈解離で緊急入院した大学時代の恩師が先月、手術を受けて回復しつつあるという情報があり、学友とともに今日、お見舞いに行ってきた。体重が大幅に減少したという以外は意気軒昂とうかがっていたので、かつ、今月中の退院の見通しということだったのでいささか気が楽だったが、それでも実際に顔を見るまでは心配が残る。学友3人とおそるおそる病室をのぞいてみると、入院着こそ着ているものの、髪はきちんと整えておられ、顔もきれいにあたっておられたので一安心。何もすることがなくて退屈しておられたのだろう、嬉しそうにベットのそばに招き入れていただいた。知的好奇心の旺盛な恩師らしく、かなり専門的な人体の構造を説明した本を手元に病状と手術について事細かな説明いただいた。全身に血液を循環させる、心臓からすぐ近くの大動脈は3層構造になっているが、その内側の2層に裂断が発生したということで、もし、最後の3層目も裂断していたら助からなかったということでは、まさに生死紙一重の状況だったという。ゴルフに向かう朝に激痛により救急車で病院に担ぎ込まれたのだが、もし、ゴルフ場でこれが起きていたらやはり大変なことになっていただろうと思うと、まだ幸運だったというべきだろう。
最初の救急処置は動脈への圧力を下げるためのものであったが、先月、11時間に及ぶ外科手術でその血管を修復した。背中から回って腹部まで切開し、肋骨を数本いったん切断・外したうえで患部の手術を行って最後に肋骨を元に戻したというもので、恩師のように特段の持病もなく、かつ体力のある人でなければ手術に耐えられなかったかもしれない。これだけ広範囲に切開したため術後も傷跡が相当に痛んだという。それも先週には解消し、いまは痛みを感じるところはないということで、手術は成功と言えるだろうということだった。
しかしながら、もちろん、入院が快適なはずはない。筋力、特に足の筋力の衰えは運動不足により顕著だし食事についても味覚障害になりそうなくらいの味付けということで、この点の不満は大きいものがあった。
恩師が引き止めることもあり、当初の予定よりかなり長く、お見舞いは結局小一時間にもなってしまった。病院をでたあと、久しぶりに会った学友と土曜日の夜で静かな小料理屋で夕食をとったが、お見舞いの後のため盛り上がりに欠けるものであったことは言うまでもない。
緊急搬送、大手術、数か月間の入院は、2年前に傘寿を迎えた恩師の体力面、精神面への影響は避けられないだろう。もちろん年齢にかかわりなく、このような極限状況を乗り越えることは容易ではない。改めて明日は我が身、という感を強くした。