あおしろみどりくろ

楽園ニュージーランドで見た空の青、雪の白、森の緑、闇の黒の話である。

フォークス日記 4

2011-04-09 | 
フォークス2日め

朝の明るさがテント越しに感じられる。
ファスナーを開け、空を見る。
雲は厚く広がり、いつ雨が降ってもおかしくない空模様だ。
まあこれも天気予報どおり。低気圧がすぐ近くにあり、雨が降らなければラッキーといったところだ。
だがボクには確信があった。
今日一日天気はもつのではないか、という根拠のない自信があった。
だってボクは晴れ男だから。
それに今日はキミがガイドとなって氷河を案内してくれることになっている。
こういう強い光を持つ人の行く所は晴れるのだ。
数年前にタイがクィーンズタウンに遊びに来た時のことだ。
南島に前線が居座り、どこへ行っても大雨という日だった。
僕らはダメでもともとでルートバーンのそばのレイクシルバンの森へ行った。
クィーンズタウンから車で移動する間ずーっと土砂降りだったが、山を見渡せる場所でボクらは自分の目を疑った。
どこもかしこも雨で真っ白に煙る中、ボクらが行こうとしている場所だけ雨が降っていないのだ。
きっかり2時間、僕らが歩く間だけかろうじて天気は保ち、歩き終えると同時に雨が降り始め、すぐにそこは周囲と同様まっ白な雨に煙ってしまった。
こういう人が集まると、1+1が2どころか3にも10にも1000にもなる。いや考えようには無限大にもなり、局地的には天気さえも変えてしまう。
このごろはそういうことが良くあるのであまり驚かなくなった。
ただありがたく空の神に感謝をしつつ、その場を楽しむのみである。




タイとフラットメイトのブレンダが仕事に出かけた後で、キミが朝飯を作ってくれてランチの用意までしてくれた。至れり尽くせりだ。
準備を整え、いざフランツジョセフへ。
タイが働く会社へ立ち寄りクランポン(アイゼン)を借りる。
こういった細々したこともガイドさん(キミ)がやってくれる。ガイド付きツアーは楽だ。
そして氷河へ。氷河までは車で15分ぐらいだ。
「ここに新しく自転車用の道を作ったんですよ」
キミが言う。なるほど車の道に平行して細い道が木々の向こうに見える。
これは良いアイデアだ。ぼくだってこの道は車より自転車で走ってみたい。森の中を走ったら気持ちいいだろう。
そのうちにフランツジョセフの街にもレンタルバイクの店ができるんだろうな。
雲は低く垂れ込み氷河の上部は見えないが、今日歩く辺りはクリアーに見える。




車を置き30分ほど川原を歩くと氷河の末端部に着く。
そこまでは平坦な歩きで家族連れの旅行者の姿も目立つ。ボクも何年か前には5歳の深雪を連れてお隣フォックス氷河の末端部まで歩いた。
氷河のすぐ近くにはロープが張られこの先は自己責任ですよ、という立て看板もある。
この先はガイド付きツアーで行く人か、クランポンなど装備を持った経験者が入れる。
実際には行政機関には人がそこに行くのを止める力はない。行かない方がいいですよ、というアドバイスはできるが、やめなさいとは言えないわけだ。
国立公園というものはみんなのものだ。人はそこを歩く権利がある。その権利は誰にも遮られない。
ただしその権利の裏側には『自分の身は自分で守る』という重い責任が常につきまとう。自己責任というやつだ。
あれは去年だったか、フォックス氷河で若い兄弟の旅行者2人が氷河に近づきすぎて氷の崩落に巻き込まれて死んだ。
自然を甘く見た、と言えば厳しい言い方だが他に言葉が見つからない。
自分は大丈夫という何の根拠もない想いか、はたまた何も考えていなかったのか、とにかく2人は氷につぶされ死んでしまった。
この事故で可哀想なのは両親だ。親より先に子が死ぬ、これほどの悲劇はない。
楽しいニュージーランド旅行をしているはずの息子2人を同時に無くしてしまったのだから。
死んだ人はもう天国へ行って痛みも苦しみもないはずだが、残された両親は辛い哀しみと共に生きていかなければいけない。
死んだ人を可哀想だと人は言うが、本当に可哀想なのは生き残った人だ。



氷河の末端には土砂がかぶっていて、ぱっと見は砂山だ。
そこを登っていくのだが、砂山には踏み跡がいくつもあり、どれを登って行ってよいのやら分からない。
キミが近くに居た氷河ガイドに聞き、道を教えてもらう。
普段は自分がガイドとなりお客さんを案内するのだが、今日はボクはお客さんだ。
全くもってガイドと一緒というのは楽である。ボクとマー君はただついて行けばいいのだから。そのガイドが友達とあれば言うことなしだ。
今日のキミのいでたちは、短パンにゲーター(スパッツ)という典型的ニュージーランドの山歩きのスタイル。ザックにはアイスアックス(ピッケル)が2本さしてあり、実に頼もしい。
とはいえキミはプロのガイドではない。毎日氷河を歩いているわけではない。氷の状況でルートは常に変わる。
こんな時に地元のプロガイドに道を聞けるというのはローカルの特権だ。
砂山から氷に変わる所でクランポン装着。いよいよ氷の上へ。
なだらかな氷の斜面を登って行くと氷の裂け目が見えてきた。
どうやらそこを通るようだ。
人1人が通るのがやっと、というような狭い隙間を行く。
長さは20mぐらいだろうか。
狭い隙間を通る時どうしても服が氷に付き濡れてしまう。雨が降っていなくてもカッパは着た方がいいかな。

コメント
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