*****7行目****2部 安全保持
監視
―――監視していれば安心
●監視カメラ花盛り
昨今の日本社会では、監視カメラが花盛りである。犯罪の多発する繁華街には警察が設置しているし、ATMでも、また万引きの多い商店では、ごく当たり前の風景になっている。注1***
これを称して、「監視社会の到来」と危惧の念を表明している人々もいるが、富士総合研究所の調査では、設置を必要とする場所によって結果は異なるが、6~9割の人々が設置を望んでいる。それだけ、安心、安全への不安が高まっているのであろう。
なお、監視カメラのねらいの一つは、犯罪現場や違法現場を再現することで犯人逮捕と証拠保全をねらうものである。時折、ニュースとして、人物映像が公開されて犯人逮捕につながることもある。
もう一つのねらいは、監視していることをアピールすることで、「悪」を抑制することである。あえて、「防犯カメラ作動中」の表示を目立つようにしてあるのは、そのためである。
●監視の心理学
監視をカメラで代替できるようになるまでは、人がその役割を担っていたし、今でも、プラント制御や航空機管制などの仕事は、現場から送られてくる映像を人の目に頼ったモニター監視やレーダー監視が中心である。
心理学では、こうした監視業務をビジランス(vigilance)と呼んでいる。コンピュータの導入によるシステムの自動化が進行するについて、ビジランスの仕事は増えている。
ビジランス業務とそれに従事している人の心理的な特徴を挙げておく。
○ほとんどいつも異常なし
領域にもよるが、異常の発生、危険(標的)の存在は、高々数%である。コンマ以下のところもめずらしくない。しかも、発生は、その場所も時間もほとんどランダムである。したがって、ついうっかり見逃してしまう可能性が高くなる。
○それでも一定程度の注意を絶えず注いでいなければならない
そんなところから、持続的注意課題とも呼ばれることもある。人の注意の持続には厳しい限界がある。いつも一定レベルの注意を長時間持続することはできない。過酷な場面でのビジランスなら30分程度が限界である。注意レベルを高めておくための次のような工夫が必要となる。
・バックグランド・ミュージックや照明など作業環境を整える
・疑似危険信号(ダミー)をあえて発生させる
・視覚だけに頼らないで、聴覚にも訴える
・いつもと違う兆候は、ブリンキングや色などによって、目立たせる
・休憩管理を厳格におこなう
○虚報も発生する
危険を見逃すミスをしないようにしているので、虚報
(false alarm)、つまり本当は危険は存在しないのに危険と判断してしまう確率が増える***注1 安心、安全のためには、危険(標的)の徴候を見逃さないように、規準を緩くしてあるからである。つまり、怪しい時には危険あり、と判断するようにしているのである。それは、時には狼少年の汚名を受けるかもしれないが、喜んでそれを受け入れる覚悟を持つことも状況によってはあってもよいし、組織としてもそれを認める雰囲気を醸成しておかなければならない。煙草の煙に火災報知器が反応してしまうのは困るが、火災を見逃してしまうリスクを考えれば、許容される。
●監視されるのはいや
何も悪いことをしていないのだから監視されていてもどうということはないとの思いを持っている人が大半ではないかと思う。しかし、これまた誰しもが、「万引き防止カメラ設置」の表示をみると、平常心より少し緊張したり、お客をこの店は信用していないのかとのちょっとした不信感を持つはずである。
これがもっと大規模になると、権力による監視への不安感、恐怖感となる。警察では主要道路を通る車の番号はすべて記録している。犯罪摘発にかなりの効果を発揮しているらしい。
しかし、こうした行政による無差別的な監視システムは、ジョージ・オーウエルの小説「1984年」にある「ビッグ・ブラザー」による国民総監視の世界にまで想像をたくましくすると、どうしても、ぞっとするような怖さを感じてしまう。
これは、監視に関してだけでなく、安心、安全を考える時には、至るところで出てくる。つまり、「安心、安全であってほしい。そうかといって、窮屈なのは困る」という気持ちである。一般には、トレードオフ(trade-off)問題と言われている。
ぎりぎりのところで両者の兼ね合いを考えることしか、解決策はないのだが、大事なことは、兼ね合いをあれこれと考えることである。警察が監視カメラを至るところに、という動きに対して、それは困ると異義を申し立てる、逆に、子どもがもっと伸び伸びと自由に、という主張に対して、それでは安心、安全を保てないと親が異議を申し立てる。こうしたせめぎ合いの中で事を決めていくことが大事である。いずれか一方が強力になってしまえば、社会は混乱するか停滞してしまう。(K)
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注1 文部科学省の調査によると、防犯カメラやセンサーを備えた学校は、52.7%と、前年比7.3%増(06年6月22日付き朝日新聞より)
注2 信号検出理論によると、
あると判断 ないと判断
標的がある
ない